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女性解放の歩み、今に通底 作家・門井慶喜

  • 酒井順子『百年の女 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成』(中央公論新社)
  • 澤見彰『白き糸の道』(新潮社
  • 佐藤賢一『テンプル騎士団』(集英社新書)

 出版界に独特の香気をはなつ「婦人公論」が創刊されたのは大正5(1916)年。当時の女性雑誌にはめずらしく料理、育児などに関する実用記事をしりぞけて、女性解放、男女同権を主張する総合雑誌として出発した。
 その誌齢は100年をこえ、これまで1400冊あまりを世に出している。その古雑誌の山にとりつき、興味ぶかい話題をひろうとともに今日的意義を見いだすこころみが酒井順子『百年の女』。
 創刊当初は著者が男ばかりだったとか、「女には何も期待できない」というような身もふたもない意見も掲載されたとかいう論壇史的な話題が中心だが、著者の目は、ときに風俗をも見落とさない。第2次大戦後、日本婦人を解放したのは団地ぐらしとシリンダー錠だったというのは虚をつかれた。
 それまでの日本家屋は外から鍵がかけられず、つねに誰かが(女性が)留守番しなければならなかったのに、これで外出が可能になったと。筆致の軽妙はこの著者ならでは。
 「婦人公論」が大正期に出発した評論雑誌だとすれば、澤見彰『白き糸の道』は現代にあらわれた小説本である。やはり女性の解放を主題とするが、物語は江戸後期にはじまる。主人公の糸が奉公先の若旦那からのプロポーズを拒否し、「あたしにしかできないこと」をしようと世に出るくだりは「自分さがし」のおもむきもあり、私には、一種の現代小説と読めた。
 3冊目は一転して佐藤賢一『テンプル騎士団』、男だらけの西洋史。テンプル騎士団とは十字軍時代(1119年)にエルサレムで設立された僧兵団だが、全ヨーロッパの信頼を受け、莫大(ばくだい)な財産を持つようになり、フランス王にほろぼされた。
 瀆神(とくしん)と男色の汚名を着せられたのである。……などとふつうの書き手なら時系列的に説明するところ、著者はいきなり滅亡を書き、しかしその理由はわざと明らかにしないまま創立の経緯へ話をもどした。
 読者はもどかしく思うだろう。なぜかと身をのりだすだろう。遠いむかしの外国の歴史がぐいぐい頭に入る所以(ゆえん)である。プレゼンのお手本としても推奨したい。=朝日新聞2018年9月9日掲載