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「新築がお好きですか?」書評 一代で使い捨てる特有の制度

評者: 齋藤純一 / 朝⽇新聞掲載:2018年09月15日
新築がお好きですか? 日本における住宅と政治 (叢書・知を究める) 著者:砂原 庸介 出版社:ミネルヴァ書房 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784623083664
発売⽇: 2018/07/17
サイズ: 20cm/255,4p

新築がお好きですか? 日本における住宅と政治 [著]砂原庸介

 表題の問いかけに「いいえ」と答える人はどれだけいるだろうか。本書によれば、「好き」という答えは、私たち自身の好みというよりも、種々の法律・政策や慣行が複合してつくりあげてきた「持家社会」というこの国に特有な「制度」を反映している。
 この制度がいま破綻をきたしていることは、住宅過剰の事実に明らかである。すでに膨大な空き家を抱えながら、毎年約100万戸もの住宅が新たに供給される。新築住宅が増える一方で古い住宅が放置されるなら、当然空き家が増える。空き家が増えれば、安全への懸念が生じるだけではなく、地域の景観や資産価値も損なわれていく。老朽化しながら建て替えの見通しが立たない分譲マンションも同様に「負の資産」と化しつつある。
 本書は、持家社会をつくってきた要因を一つひとつ取り上げ、その問題を手際よく指摘していく。住宅金融公庫を通じた融資や住宅ローン減税など税制面での優遇、質量ともに十分ではなかった公営賃貸住宅の供給。緩すぎる土地利用規制が助長してきた野放図な住宅開発など、である。
 これらが絡み合った結果、既存の住宅資産を活用する市場はいまだに発達せず、住宅は一代限りで使い捨てられていく。持続不可能であることが分かっても、この制度は容易には変わらない。この先変わっていくとすれば、それを促すのは人口減少による土地需要の低下であろう、と著者は見る。持家社会における資産価値は住宅ではなく土地にあるからである。
 持続可能な制度が、住宅そのものを資産として大切に扱い、最後まで責任をもって管理する開発者や利用者からなる社会であることは言うまでもない。
 住宅は、個々人の利用に委ねられると同時に私たちの間にある。「負の資産」の増殖による公共空間の劣化・荒廃にどう対応していくか。本書は住宅問題を考えるための決定版である。
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 すなはら・ようすけ 1978年生まれ。神戸大教授(政治学・行政学)。『分裂と統合の日本政治』で大佛次郎論壇賞。