佐藤賢一「テンプル騎士団」書評 歴史に消えたジェダイのモデル
ISBN: 9784087210408
発売⽇: 2018/07/13
サイズ: 18cm/284p
テンプル騎士団 [著]佐藤賢一
聖杯伝説や、ドラクエ、ガンダムなどのサブカルチャーは、欧州中世の騎士団を霊感の泉としている。
スター・ウォーズのジェダイの騎士や秘密結社「フリーメーソン」のモデルとなったテンプル騎士団ほど歴史上有名な存在はあるまい。だが、その実態は意外と知られていない。本書はテンプル騎士団の200年の興亡を描いたまたとない概説書である。
テンプル騎士団は、第1回十字軍がイスラム世界の分裂の中で偶然にも成功を収めた後、エルサレムへの巡礼者の保護を目的として12世紀初頭に設立された。十字軍成功の熱狂の中で王侯貴族はこぞって土地や城館を寄贈し騎士団はヨーロッパ一の大地主となった。しかしイスラム世界がサラディンによって再統一されると十字軍は劣勢を余儀なくされていく。情勢の悪化に伴い騎士団は聖地で戦いの先頭に立つようになり、軍事力、政治力、経済力を兼ね備えた超国家組織に変貌を遂げる。
1291年に十字軍が終焉を迎えると数々の特権に守られた騎士団に対する風当たりは強くなった。聖地を守るという大義がなくなったのである。騎士団は、全ヨーロッパに管区、支部といった巨大ネットワークを持ち、指揮命令系統の明確な常備軍、銀行業の始まりともいわれる財務管理システムを有していた。これは、近代的な集権国家を目指すフランス王、フィリップ4世が欲したものと同じだった。両雄、並び立たず。どちらかが姿を消さねばならなかった。テンプル騎士団と、生き延びた聖ヨハネ、チュートンの両騎士団を分かつものは何だったのか。ローマ教皇を支配下に置いた(アヴィニョン捕囚)剛腕のフランス王は、1307年10月13日の金曜日、テンプル騎士団を一斉に検挙してその財産を手中に収めた。テンプル騎士団は、「13日の金曜日」の伝承を残して歴史の闇に消えたのである。歴史の面白さを実感させる秀作だ。
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さとう・けんいち 1968年生まれ。作家。『王妃の離婚』で直木賞。『英仏百年戦争』など著書多数。