人は皆、居場所を探しているのだろう。この手を握っていてくれる人を、あるいは手を差し伸べることのできる存在を、求めてやまないのかもしれない。
本書は、複数の男女の人生が交錯する恋愛小説である。と同時に、緻密な職業小説であり、地方小説としても味わい深い。地方都市に生まれ、そこで暮らし続ける若者たちの閉塞感をつぶさに描き出す。ままならない人生の中で、それでも心の拠り所を求めあう、登場人物たちの不器用さが強く印象に残る。
主人公は、富士山を望む某地方都市の町で、介護士として働く日奈と海斗。元恋人同士の二人だが、育て親の祖父を亡くした日奈の生活を、海斗が支えるような関係が続いていた。
そんなとき日奈が惹かれたのは、東京で暮らす年上の男・宮澤。彼は庭の草刈りを口実に、日奈を度々訪ねてくる。渇いた心に水を撒くような恋の営みが、うつくしい筆致で描かれていく。しかし、幸福な日々にも、静かな終わりが迫っていた。
一方、海斗は、後輩介護士でシングルマザーの畑中と付き合いはじめ、彼女の九歳の息子・裕紀の面倒を見るようになる。母親に疎まれ、学校にも居場所がない様子の裕紀。海斗は彼の手をとり、ある言葉を語りかける。二人が心通わせたその一瞬、胸に温かな灯をともされた心地がした。
本書を読む間、人生のあらゆる時間が凝縮しているようにも、ほとんど止まっているようにも感じられた。それは、この物語が常に「老い」や「死」の隣にあるからだろう。じっと手を見て、思いを巡らせる。共に生き、これからも色々なことにあがき続けるだろう手を。自分は紛れもなくここにいる。
人はゼロから生き直すことはできない。情けない過去、逃げ切れない自分の嫌な部分、すべてを地に包んで、荒れ果てた地から、ひっそりと再生を試みるのだ。本書はそのことを、ありのままに伝える。繊細であると共に力強い一冊である。
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幻冬舎・1512円=2刷1万7千部。4月刊行。直木賞候補。福祉や地方の問題を自分に引きつけて読み込む読者が多いという。「若者のことが知りたい」と手に取る人も。=朝日新聞2018年10月6日掲載
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