「好書好日」では、「笑う・泣く」をキーワードに感情をゆさぶる多くの本を紹介しています。なかでも「笑い」は動物のなかでも人間独特の感情と言われます。日々、人を笑わせることにしのぎを削る芸人たちの苦労は推して知るべしですが、それゆえに表舞台ではみせない素顔にも人間的な魅力を秘めています。そんな芸人たちをまとめて紹介した本を集めてみました。
- 「日本の喜劇人」(小林信彦、新潮社)
- 「あちゃらかぱいッ」(色川武大、河出文庫)
- 「誰も書けなかった『笑芸論』」(高田文夫、講談社文庫)
- 「上方芸人自分史秘録」(古川綾子、日経ビジネス人文庫)
- 「一発屋芸人列伝」(山田ルイ53世、新潮社)
(1)「日本の喜劇人」
日本の戦後喜劇史を語るうえで、基礎文献と言っていい本です。戦前から活躍したロッパ、エノケンから、テレビ時代のスター、欽ちゃん、たけしまで、大物芸人たちの芸の本質をその素顔とともに鮮やかに描き出していきます。舞台、映画、テレビという異なるメディアのなかで笑いがどう機能するかを押さえた喜劇論は同時に優れたメディア論にもなっています。
(2)「あちゃらかぱいッ」
「日本の喜劇人」の新潮文庫解説は直木賞作家の色川武大(別名・阿佐田哲也)。彼が同書に触発されて書いたと思われる一冊です。戦前の浅草喜劇黄金時代、小学校をさぼって通いつめた実体験をもとに、彼が愛した芸人たちが戦中戦後をもがくように生きた姿が描かれます。登場人物の多くはいまとなっては、名も伝わっていない芸人ばかり。たんたんとした筆致ゆえに哀切感が漂います。
(3)「誰も書けなかった『笑芸論』」
売れっ子放送作家であり、落語立川流真打ちでもある高田文夫が、幼少期から接してきた芸人たちの肖像を、自らの体験とともに描いた自伝的喜劇史です。のっけから、森繁久彌の豪邸の庭から柿を盗んで追っかけられたエピソードが出てくるあたりが強烈。ビートたけしとの交流をはじめ、山の手のボンボンから芸能界の奥深くに入り込んだ著者にしか知り得ない話が満載です。
(4)「上方芸人自分史秘録」
「お笑いといえば大阪」と言われるわりに、意外と少ない関西芸人の群像本です。人気全国区の横山やすしも出てきますが、戦後の上方落語の復興に尽力した六代目笑福亭松鶴(仁鶴の師匠)や松竹新喜劇の藤山寛美(直美の父)ら、東西の人気差が甚だしい芸人たちが次々と登場。自伝などの文献をもとに、彼らの素顔をまとめて紹介しています。なるほど上方は面白い、とうならされます。
(5)「一発屋芸人列伝」
面白うてやがて悲しき…を地でいく芸人の系譜は現代にも脈々と受け継がれています。その代表が「一発屋」。「ルネッサーンス!」で知られ、自らを一発屋と位置づける著者が、一発屋芸人たちの「その後」を聞き書きしたノンフィクションです。レイザーラモンHGや波田陽区らのぶっちゃけ話にせつなくなる一方、不器用ながらも、どっこい生きてる彼らの姿に励まされる人も多いはずです。