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「団地の給水塔大図鑑」書評 日常の中に見いだす新しい地図

評者: 宮田珠己 / 朝⽇新聞掲載:2018年10月20日
団地の給水塔大図鑑 著者:小山 祐之 出版社:シカク出版 ジャンル:技術・工学・農学

ISBN: 9784909004758
発売⽇:
サイズ: 21cm/221p

団地の給水塔大図鑑 [著]小山祐之

 団地のなかにひときわ高く異様な存在感で立ちあがる給水塔。
 子どもの頃、そのフォルムが妙に気になり、あれは何なのだろう、ひょっとして自分を監視しているんじゃないか、と不安な気持ちになったものだった。
 ポンプで高置水槽に水を貯め、重力を利用して団地に配水する施設だとわかった今も、なぜか気になる存在であり続けている。
 著者によると、日本に現存する給水塔は813基。ポンプ性能の向上により必要性が薄れ、今ではその数は減り続けているという。建設のピークは昭和40年代で、平成になってからは新設がガクンと減っている。その意味では昭和遺産と言えるのかもしれない。
 本書では400基超の給水塔を掲載。機能は同じでもデザインはバラエティー豊かなのが面白い。見事なプロポーションにハッとするものもある。
 最近は、都市や街なかのちょっと気になるモノや景観を巡るマニアが増えてきた。対象は工場だったり、水門だったり、大仏だったり、団地だったり、高速道路のジャンクションだったり、小さなものでは、マンホールの蓋やエアコンの室外機から、信号機に送水口まで。街の景観を骨の髄まで味わい尽くそうとする欲望には驚くばかりだ。
 いわゆる名所・旧跡などの観光地を目指すのではなく、個人個人が自分の琴線に触れたものなら何でも「観光」してしまう時代になった。非日常を求めてわざわざ観光地に行く必要はない。日常のなかに非日常を見出せばいいのだ。
 なぜそういう人が増えているのか。今の人は、遠くへ行くお金がないから? 
いやいや、これだけ多くの給水塔を見て回るのは相当な出費のはず。そうではなくて、この退屈な世界を再編集したいという欲求ではないだろうか。既成の地図に飽きたらず、自分の新しい地図を立ちあげる。われわれが求めているのは、新しい世界地図なのだ。
    ◇
 こやま・ゆうし 1982年生まれ。2008年に給水塔を鑑賞する「日本給水党」をウェブ上につくり、ブログを開設。