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フルポン村上の俳句修行 秋雨降る豪徳寺で初の吟行句会

文:加藤千絵、写真:斉藤順子

境内で1時間に7句作るのがルール

 村上さんと10月5日午後2時に待ち合わせ、向かったのは東京都世田谷区にある豪徳寺。ここを舞台に吟行している句会が「車の会」です。

 「車の会」は、俳句結社「ホトトギス」の俳人・今井肖子さんと、肖子さんの母親で、やはり俳人の今井千鶴子さんが世田谷近辺に住んでいるアラフォーの若者(俳句界の平均年齢は70歳とも言われています)と開いている吟行句会です。名前の由来は、8年前に始めた当初の句会場が「車」という名前の喫茶店だったから。今は豪徳寺で1時間ほど吟行した後、近くにある肖子さんと千鶴子さんの自宅で句会をしています。

>村上さんの連載直前インタビューはこちら

 俳句を始めて約2年、バラエティー番組「プレバト‼」で俳句の才能を開花させている村上さんですが、番組の宿題以外ではほとんど句を作っておらず、まして、その場で俳句の題材を探しながら句作する「吟行」は初めてだといいます。3時までの1時間、豪徳寺を散策して7句作るという「車の会」のルールに、少しおびえている様子。しかも、当日は降っているか降っていないかくらいのほそぼそとした雨模様でした。

 肖子さんと対面し、やや緊張気味の村上さん。しかし「マスクの句(テーブルに君の丸みのマスクかな)からファンです」と言われて、思わず顔がゆるみます。「今日は『秋の雨』ではあるんですが、湿気があるのでむしろ『颱風(たいふう)』という感じかもしれません。せっかくの吟行句会なのに、『秋晴(あきばれ)』や『天高し』など秋らしい季語が使えない、非常にぼんやりしていて難しい天気ですね。でも(境内の)『薄紅葉』がきれいでしたし、『木の実』や『落ち葉』もありますよ」というアドバイスをもらい、「なんとか7句、形にします!」と意気込みます。

 豪徳寺は幸い、ネタには尽きません。境内には本堂のほか三重塔もあり、広大な墓地の中にはかの大老・井伊直弼の墓もあります。「招き猫発祥の地」のひとつとしても知られ、大小さまざまな招き猫が奉納されていて、近年は外国人の観光スポットにもなっています。

 そんな境内を、携帯電話と電子辞書を握りしめながら、やや速足で歩き回る村上さん。「あの木の名前が分からない」「あの花の名前が分からない」「あの鳥が分からない」と焦りながら、「とりあえず五七五にはしました」と作ったのが以下の7句です。(原文ママ)

  • 台風に先達つて萎れる仏花
  • からっぽの墓の花立て小鳥去る
  • 招福猫児(まねぎねこ)すだち並んで売られおり
  • 招福猫児の企むごと眼颶風(ぐふう)圏
  • 三重塔より遠くから紅葉(もみ)づ
  • 秋の雨脱げた地蔵の赤頭巾
  • 薄紅葉絵馬に多様な言語あり

清記、選句からの自己紹介タイム

 「車の会」では吟行で作った7句を1句ずつ短冊に書き、それを肖子さんが集めて交ぜて、誰が作ったか分からなくした状態で「清記」用紙に清書します。清記に書かれた無記名の句を参加者が順に見ていき、それぞれいいと思った句をノートに書き留めます。その中から最も優れている「特選」を含めて8句を選句し、順に発表。もちろん自分の句を選ぶことはできません。

肖子:句会で自分の句が読まれたら、「名告(の)り」と言って「私のです」っていうので名乗ります。
村上:村上健志です?
肖子:下だけで大丈夫です。
村上:健志です?
肖子:「です」もなくていいんです。
村上:健志!
肖子:はい。これからいろいろな句会に行かれると思うんですけど、それによっていろいろです。「はい、○○です」っていう句会もありますが、私たちは俳号だけ言います。そこで初めて、誰が作った句かっていうのが分かるわけです。

 おのおの選句を済ませ、「名告り」を始める前に、メンバーの自己紹介をすることにしました。この日、吟行に参加したのは村上さんと肖子さんを含めて男女7人。句会からは千鶴子さんも加わり、計8人で句座を囲みます。それぞれ名前と句歴を披露すると、13~15年選手を中心に、村上さんとほぼ同じ2年半が1人、俳句を始めたのが比較的遅かった肖子さんは20年ということでした。 

村上:村上健志です。俳句を始めてまだ2年ですが、がんばります!
千鶴子:いつもテレビで拝見してますけど、あなた、いつも2等賞だもんね(俳句のバラエティー番組で夏と秋の2大会連続、村上さんは梅沢富美男さんに次いで2位)。
一同:(爆笑)。
千鶴子:精鋭の中からまた(大会を)やって、それで2番目なの。
村上:1等賞取れるようにがんばります!

 村上さんに続き、マイペースな千鶴子さんの自己紹介が始まります。

千鶴子:私は今井千鶴子と申します。俳句を始めてから70年。年数だけはだいたいの人に負けないんです。二十歳になるより前から始めたんですけどね。ちょうど戦争中だったんだわ。それで母も父も(俳句を)やってまして、親戚が全員やっていて、疎開してきゅーっと集まってたので、みんな戦争が退屈だから始めたんです。それでもう、70年くらいになります。もう90歳になりますので。よく足が痛くなりますのでどうも、ご迷惑をおかけしてすいません。

 千鶴子さんと肖子さん母娘はいずれも、俳句結社「ホトトギス」の同人です。正岡子規が創刊した俳句誌「ホトトギス」を継承した高浜虚子が主宰し、今に引き継がれている最大の結社です。四季による自然を先入観なしに詠じる「花鳥諷詠」「客観写生」を掲げ、季語(ホトトギスでは季題)を主題にした17音の定型を守っています。

まともじゃない句が4つ!? 村上さんの結果は 

肖子:(名告りの前に)みなさん、何か「あれ?」と思うような句はありました?
千鶴子:4つくらいありました。でもあとはまともだと思いました。
一同:怖い!(笑)
村上:4つはまともじゃないって、むちゃくちゃ怖いですね。
千鶴子:とにかくね、私、今の世の中にはあまり理解できないことが多いんですよ。第一スマホ持ってないし。炎上なんて全然分からないし。
一同:(爆笑)。
肖子:炎上が分からなくても生きていけるから大丈夫です。

 千鶴子さんからやや謎の講評があり、いよいよ誰の句がよかったかを明らかにしていきます。村上さんの俳句の結果は――。7句中3句が千鶴子さん、肖子さんらの選に入りました。

  • 台風に先達つて萎れる仏花(肖子選)
  • からっぽの墓の花立て小鳥去る(千鶴子ほか1名選)
  • 招福猫児すだち並んで売られおり(千鶴子選)

 「からっぽの~」の句は、10月の季語である「小鳥」を詠んでいますが、同じく季語である「小鳥来る」と詠んだ方がいいのか、議論になりました。「小鳥」も「小鳥来る」もこの季節、日本に渡ってくる鳥や、山から人里に降りてくる小鳥たちを指します。

肖子:これ、やっぱり去っちゃいますかね。小鳥が来た方がいいなと思っちゃったんですよ。花立てが空っぽだから、小鳥が去っちゃうと寂しい感じ。
参加者:「小鳥去る」と「小鳥来る」で印象が変わりますね。
千鶴子:「小鳥来る」っていうのは、小鳥の声がしてもいいの。
肖子:別に実態が見えなくてもいいのね。
村上:なるほど。
千鶴子:「小鳥来る」っていうと小鳥が飛んで来たっていうんじゃなくて、小鳥が来るような季節になった、っていう感じでしょ。だけど「小鳥去る」っていうとね、目の前を動くのよね。だからちょっとおもしろいと思ったの。たいていみんなこういう時、「空っぽの墓の花立て小鳥来る」ってするでしょ。それが「去る」っていうと、目の前をぱっと去ったのが「見える」なって。
参加者:「来る」だと遠くの景色で、「去る」だと近くに焦点が当たっている感じがしました。
千鶴子:俳句ってさ、17音しかないからね。字がひとつ違っても、助詞がひとつ違っても、意味がぱっと変わっちゃうのよね。見える景も変わっちゃうしね。

 ちなみに今回、千鶴子さんの特選になったのは以下の3句でした。

  • 秋冷や背を丸めつゝ初対面 肖子
  • 秋の雨濡れたフランス語の会話 祐子
  • 時折の風と小鳥の声見上げ 肖子

句会を終えて、村上さんのコメント

 めちゃくちゃ緊張しましたね。一句も選ばれなかったらどうしよう、って。何句か選ばれたからよかったですけど。でも、自信があるような「きたきた!」みたいな句は正直なかったんです。けど、せっかくだから「かましてきたな」とも思われたいじゃないですか。こんなこと言ったら本当に失礼ですけど、僕みたいなまだ全然技術もない者が雨の降り方とか、お寺の建築物の描写をしたところで、ただつまらないだけになるから。みんなが言わないかもな、っていうのを織り込んだんです。「企てるような眼」とか、運がよければ(選ばれるかも)、みたいな。せっかくだったら「コイツ、のびしろあるかも」って思われたいなと思ったので。でも、あとは素直に見えたものを詠みました。すだちと招き猫が一緒に売ってた、とかいうのはもう単純に見えたものそのままです。

 句を発表した後に、みんなで「小鳥が来るがいいかな、去るがいいかな」とか考察してたのがいいですね。僕はあんまり分からなかったから入っていけなかったんですけど、ああいうことが楽しいんだろうなと思いました。「からっぽの墓の花立て小鳥去る」の句は、お墓があったのでなんとか句にしようと思っていた中で、花がささっていない花立てと、すでにむちゃくちゃ萎れてる花ばっかりあったから、「台風に先達って萎れる仏花」っていうのと2つ詠んでるんですよ。そもそも、そういうのが好きなんです。華やいでいるものじゃなくて、ちょっと朽ちているもの的なのが好きなんです(笑)。

 あと、俳句とは別ですが「(句を)いただきました」とか「健志」って名乗るとか、句会独特の言い回しがはずかしかったですね(笑)。舞台で「どもー、フルーツポンチ村上です」って名乗るのはもう慣れてるので、全然はずかしくないんですけど。みんなふつうに言ってるから、そういうものなんだ、と思って。

 みんな優しいからアレですけど、十年クラスやってる人たちの中にまぎれられただけでもよかったです。「こいつマジ下手だわ」って思われて句会を台無しにしたら、一番いやじゃないですか。誰から怒鳴られることもなく、今日は楽しかったです。いつか「やめたほうがいいよ」とか言われるのかなあ・・・・・・。

先生から、村上さんにアドバイス

 根本的にセンスがいいんだなあと思いました。一つだけ言うと、「風」「先達つ」などの言葉遣いが教養深いと思う一方、文字に語らせないで平明に、という虚子の言葉も浮かびます。知り合いに、中学三年生までに習った言葉だけで句作を心がけていると言っている俳人がいますが、そこまでではなくても、平明にして余韻がある、という佳句の本質を忘れないでほしいなあと思います。(肖子)

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