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「われらはレギオン」書評 主人公多数、求心力あるSFに

評者: 山室恭子 / 朝⽇新聞掲載:2018年11月17日
われらはレギオン 1 AI探査機集合体 (ハヤカワ文庫 SF) 著者:デニス・E.テイラー 出版社:早川書房 ジャンル:SF・ミステリー・ホラー

ISBN: 9784150121785
発売⽇: 2018/04/04
サイズ: 16cm/447p

われらはレギオン 1~3 [著]デニス・E・テイラー

 おや、温厚な老教授が珍しく沸騰中です。
 「君たち、今週の創作課題は何だね! 主人公を不死にしてはならんと言うたろうが。主人公が、やたら強いのは構わん。どんな異能力者にするかは、むしろ見せ場じゃ。でも不死は読者に嫌われる」
 「しかし教授。主人公が不死でも、めっちゃわくわくするSFが出現したんですよ。ときは2133年、21世紀の記憶を持ったまま事故死したエンジニアの頭脳が冷凍保存から目覚め、コンピュータ上のプログラムとして活動を始めるんです。24時間休まず宇宙を駆けめぐり、3Dプリンタで何でもほいほい創っちゃう。すごいですよ」
 「なんじゃあ、そのケッタイなSFは?」
学生一同「われらはレギオン!」
 「むむ。じゃが、主人公は原則3人以内、話を拡散させるな、とも教えた。なのに揃いも揃って大人数の、ごちゃごちゃストーリーを提出しおって」
 「しかし教授。主人公が大人数なのに、ぎゅっと求心力のあるSFが出現したんですよ。主人公が自分のクローンを何体もつくり、クローンがまたクローンをつくり、130年後には500体もの主人公が宇宙の果てまで制覇するんです」
 「なんじゃあ、そのケッタイなSFは?」
学生一同「われらはレギオン!」
 「むむむ。レギオン=軍団=クローン集団か。じゃが、そんなに大人数で不死の主人公にしたら、敵役はどうするんじゃ。ダースベイダーも500体か?」
 「しかし教授。善悪の境を敢えてぼやかすのも興趣を深める、とおっしゃったではありませんか。地球を逐われた人類が、どんな新世界を構築するか、石器時代状態の異星人にどこまで干渉するか。宇宙は思考実験の宝庫です。スペースオペラも脱ドンパチですよ」
 「ふうむ、新世代SFの出現というわけか」
一同「われらはレギオン?」
    ◇
 Dennis E.Taylor カナダ生まれ。保険会社のプログラマーを経てSF作家。本書でプロ作家デビュー。