平成生まれの27歳。注目の若手作家の一人、小嶋陽太郎さんが短編集『友情だねって感動してよ』(新潮社)を発表した。どろりとした負の感情や人を信じようとする思いとが交錯する青春小説だ。
表題作は、語り手の「僕」こと倉田、恋人の吉川、そして人形〈はるちゃん〉と会話する男・湯浅という3人の高校生の関係を描く。入学したての同級生たちは、湯浅が人形と昼食をとることをからかうが、倉田はその輪に加わらず、湯浅に寄り添おうとする。
小嶋さん自身、学生時代は、周りの空気に流されることを嫌い、物事を自分自身で判断するよう自分に言い聞かせていたという。「一つの言動だけで、人のことを『気持ち悪い』などと判断すべきでない。集団心理に反旗を翻したかったんだと思う」。倉田は湯浅に人形を持ち歩く理由や、ある性的衝動があることを打ち明けられ、共感と疑念を抱えていく。
短編全6作は、神楽坂にある象の滑り台がある公園やカフェ併設の神社を舞台に若者が抱える影を活写する。「甲殻類の言語」では海老原(えびはら)、可児(かに)、貝原(かいばら)と、甲殻類が名字にある幼なじみの男女3人の微妙な関係を描いた。「ディストラクション・ガール」では、ある女子中学生が自分をいじめた女子に手作りの爆弾で仕返しする計画を練り、それを聞いて不安になる男子中学生を描いた。
小嶋さんは、長野県松本市に生まれ、地元の信州大に進学。「組織の一員として働くうえでプラスと判断される、勤勉さなど長所が何一つなかった」。大学3年の頃、就職活動をせず、小説を本格的に書き始めた。「いま思うと安直ですが、資格要らずの職業を考えたら小説しかない、と思った」
それから1年、執筆に打ち込み、2014年に『気障(きざ)でけっこうです』で、ボイルドエッグズ新人賞を受賞し、デビューが決まった。受賞の知らせは、就活していないことを報告し、母らに怒られた家族会議の翌日だった。「当時は生き延びて良かったなと。今は小説に真剣に向き合っています」
デビューから4年。多くの作品で若い人を登場人物にしてきた。「自分の年齢に追いつけず、大人になりきれていない。30歳と14歳だったら、14歳の方が真実味のある言葉が書ける自信がある」
たとえば「好き」という感情や「友達」という人間関係。若い人ほど、その繊細さやいびつさ、微妙さに鋭敏だ。「人間は単純なものじゃない。『好き』とか『友達』とかいう言葉では説明できないものを小説にしていきたい」(宮田裕介)=朝日新聞2018年11月24日掲載
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