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日めくりカレンダーで味わうボブ・ディラン ノーベル文学賞に輝いた歌詞の魅力

 2016年にノーベル文学賞に輝いたアメリカのシンガー・ソングライター、ボブ・ディラン。「米国の歌の伝統に、新たな詩的表現を創造した」というのが受賞理由で、ディランは書かれた言葉を音楽で踊らせた男。じゃ、その言葉を今度はめくってみましょうか?と、「ボブ・ディラン日めくり リリック・カレンダー」の登場だ。

 日めくりカレンダーといえば、猫や犬に格言もの、もしくは松岡修造あたりが定番だが、ボブ・ディランの歌詞をカレンダーにしちゃおう!と大胆に考えたのはディランの所属するレコード会社ソニーミュージックの白木哲也さんと栗原憲雄さん、そして同社の在NYのスタッフたち。

「ノーベル賞受賞の際にディランのベスト盤CDを発売しましたが、栗原さんと『短いフレーズがカッコいいよね』『格言みたいだね』と話して、歌詞ブックレットに短く切り取った歌詞のフレーズを乗せたんです。ディランって、ビートルズに比べたら日本ではよく知られてはいない人。『すごいよね』って言われるけど、何がすごいのか伝わってないでしょう? だから伝える努力をしたいな、と」(白木さん)

 そこで編み出したのが「日めくりカレンダー」。
「ちょっとずついろんな歌の言葉を試食、つまみ食いしてもらおう」(栗原さん)
と、考えた。歌詞の選択は主に栗原さん。長年ずっとディランを聴いてきた大のディラン・ファンだけに、セレクトはディランの600曲ほどある中からヒット曲も、そうでない曲も入っている。2019年1月1日~12月31日までの365日。ぎっちり全部ボブ・ディランだ。

 そこで、どんな歌のどんなフレーズがあるのか? 一部だけ先取りで教えてもらった。

“愛国心が最後の砦で、悪党はそこにしがみつくという話”
1月8日「スウィートハート」
 ディランと言うと反戦歌・社会派のイメージがあり、まさにこういう感じ。
「一般的にはディランというと、こういうものが挙げられます。プロテスト・ソングのイメージが強いですけど、決してそれだけはなくラヴ・ソングも多いんですよ」(栗原さん)

”ぼくはきみを失うために生まれてきたんじゃない きみがほしい めちゃくちゃきみがほしい”
9月4日「アイ・ウォント・ユー」
 ラヴ・ソングと一口に言うが、こんな素直な気持ちをディランは歌うのか!と驚く。
「ボブ・ディランがこんなこと歌うんだ!すごいな!って思うでしょう? 気になる女性の前で酒の勢いでつぶやいてみたくなる言葉じゃないですか!」(栗原さん)

”ああ、そばにいる天使のおかげでわかるよ 輝きわたるのは愛があるからだって”
2月14日「ウィンタールード」
 これまたラヴ・ソングだが、これは乙女ちっく路線で可愛らしい。
「ディランって、頭でっかちでアカデミックな人と捉えられますが、意外と可愛いところがあるんですよ」(白木さん)

”気分はどうだい まったくのひとりぼっちで 家に帰るあてもなく 誰からも相手にされず 転がる石のように生きるのは?”
3月30日「ライク・ア・ローリング・ストーン」
 ディランの最も有名な歌は歌詞を切り取ると意外と辛辣で考えさせられる。
「ディランの詩はいつもこの”どんな気分だい-ハウ・ダズ・イット・フィール?”なんです。相手に問いかけ、想像させる」(栗原さん)
「辛辣だとも言われますが、ディランの歌は全部が力を与えてくれるわけじゃありません(キッパリ)! それだけ人間臭いんですよ」(白木さん)

”美しいものは、どんなものであれその奥に何らかの痛みを宿している”
8月16日「ノット・ダーク・イエット」
 ハッとさせる表現、なるほどと思わせるが、よく考えると逆に分からなくなる。
「ネイティヴの人でもディランの詩は難解だって言いますが、それは理解しようとするからで、感じればいいんです。美しいものの痛み、僕には想像もつきませんが、でもそう言われたら、おお、すごい!と思うんです」(栗原さん)

“わたしがおかしたたった一つの間違い それはミシシッピに一日長くいすぎてしまったこと”
8月8日「ミシシッピ」
 全然意味は分からないのに、情景がくっきり浮かんで映画のように見えてくる。
「よく分からないけど、真夏にミシシッピに一日いたら、そりゃ暑くて汗だくだなぁとか、失敗したと思うだろうなぁとか。アメリカのある一場面が鮮明に浮かびます」(栗原さん)

“きみはばか者だよ 息の仕方を今も知っているなんてびっくりだよ”
7月20日「愚かな風」
 逆説的な励ましに聞こえる。
「この言葉がどんぴしゃにはまる日が誰だってあるんですよ」(白木さん)

“自信を持つんだ、自分を信じて「もしも」や「いつかそのうち」をあてにしない道を見つけ出すんだ”
1月1日「トラスト・ユアセルフ」
 励ましのような、かなりきつい喝のような……。
「この歌へのアンサーは12月31日にありますので確かめてください」(白木さん)

 こうして見て行くと、ディランは実に多彩な作家で、人間的にもユニークで魅力的な人だと分かる。
「聖と俗が同居しているのがディランです。日頃は神様とか崇められ、聖の部分ばかり言われてみんなが近寄れない。でも、そうじゃないですよ。意外とスケベ親父で(女性の)食いしん坊だったりしますから」(栗原さん)

 では、ディランのここが魅力だというと?
「ディランの歌は中々簡単には良さがピンとこない。ピンとこないけど、何故だか掴まれる。だからズブズブはまっていっちゃう、という気がします。答えがなかなか分からない。分かったらすぐ上がりだけど、上がれない、永遠に転がり続けるのがディランです」(栗原さん)

「レコード会社的には非常に辛いですが、こうしてください、というのは必ずハズすんです。期待しても返ってこない。ファンにも迎合しないし、変わり続けて全く同じ姿は見せない。でも、だからこそカッコいいですね」(白木さん)

 ちなみに、日めくりカレンダーは歌詞だけでなく、365日全部違うディランの写真が使われている。ディラン、捉えどころがなく、変わり続ける男だ。なるほど、だからカッコいい。

 ニューヨークのディラン事務所は「こりゃ素晴らしいものになるね! 出来上がりが待ちきれないよぉ」と誰よりも楽しみにしてるそうで、ディランも自分で、2019年毎日、日めくるんでしょうかね?