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フルポン村上の俳句修行 「俳句王子」の大学の授業で突出して気持ち悪いクリスマス句を作る

文:加藤千絵、写真:斉藤順子

宿題の季語は「クリスマス」と「雪」

 「えーっと、フルーツポンチの村上さん?」。師走も終わりに近づいているとは思えないほどあたたかな12月21日の午後、警備員に呼び止められたのは、東京都町田市にある玉川大学の正門。「フルポン村上の俳句修行~わかったつもりでごめんなさい~」の3回目は、「俳句王子」こと俳人・高柳克弘さんの大学の講義に参加させてもらうことにしました。

 高柳さんは、村上さんと同じ38歳。「王子」の由来をたずねると、「いや~お恥ずかしい」とはにかみます。「去年1年間『NHK俳句』に出た時に、何か二つ名があったほうがいいんじゃないか、っていうことになったんです。一番最初に出てきたのが『俳句王子』で、それから代案をスタッフの方とみんなでいろいろ考えたんですけど、結局一番分かりやすくてキャッチーだから、ってことで最終的に決定しちゃったってことですね」

 おだやかな口調で語る高柳さんですが、実は2000人の同人を抱える俳句結社「鷹」の若き編集長でもあります。4年前からは玉川大の非常勤講師として「日本文学概論」の授業を担当し、万葉集に始まる日本文学の流れとともに、「俳人として学んできたこともあるので、俳句をはじめ短歌、詩なども重点的に」教えているとのこと。自身は俳句の伝統を守りつつ、表現を刷新し続けることを厳しく追求していますが、二十歳前後の若い生徒たちには「まだまだ俳句は新興文学で未知のところもありますから、こういうものだよって決めないで自由に、俳句臭くならないように作ってほしい」と話します。

 この日のお題となる季語は「クリスマス」と「雪」。高柳さん自身が、二つの異なる言葉をぶつけることで思いがけない表現を引き出す「配合」という手法に俳句のおもしろさを感じていることから、配合を意識した作品を、というオーダーでした。村上さんが事前に提出したのは以下の3句です。(原文ママ)

  • 擽(くすぐ)れど無言のフィギュアクリスマス
  • 稽古場の結露す鏡雪催(ゆきもよい※今にも雪が降り出しそうな空模様)
  • コンドーム持ってたんだね明の雪

 高柳さんと審議した結果、コンドーム句は「粉雪や激しく回る乾燥機」に差し替えることになりました。裏話は後ほどするとして、3、4年の学生15人プラス高柳さんと村上さんが各3句を提出し、そこから特選1句を含む5句を選ぶ「選句」で授業はスタートしました。

学生の生活に沿った句が人気に

 それぞれの句は無記名でシャッフルされていて、誰が作ったものかは分からないようになっています。選ばれた句に1点ずつ加算していくと、「雪国の電車は強し無休校(大樹)」「雪だるまデコボコ背比べ道路端(優花)」など、学生たちの生活に沿った句が人気になりました。この日、最高の7点を獲得したのは杉田和弥(なごみ)さんの句です。

照れ隠し聖夜にマフラー必需品

真寛:マフラーを女の子が口元を隠すくらいまで巻いてる想像がつくし、かわいいなと思いました。

高柳:すごくピュアな感想で、ちょっともう、何も言い返せません(笑)。取ってないですが、健志さんはどうですか?

村上:みんなが言う通り、確かにこういう光景はすごくかわいいなと思います。クリスマスに女の子がマフラーを顔まで埋めてる姿は美しいし、飲み会の会話としては分かるんですけども、文学として僕らの想像力をかき立てるかというとむずかしいかなって思いました。僕もマフラーは大好きで、マフラーは女の子のためにあると思ってるんですけど、でもこの光景は、僕は知ってたかなって思ったんで(取らなかった)って感じです。

高柳:やっぱり共感も大事なんだけど、こういう世界を今まで知らなかった、っていう驚きが1句の中から感じられると、それも俳句の大事なところじゃないかなと思います。私がこの句にひかれつつ取らなかったのも、健志さんと同じ理由でしたので、そこがちょっと世代間の違いが出たかなという気もしますね。これは大学生であるみなさんの今の記録として残してほしい句だなと思いました。作者は誰ですか?

和弥:なごみ・・・・・・。

村上:ごめんね、なんか。

和弥:これは彼氏とクリスマスにイルミネーションを見にいったときに、マフラーをしてたんですけど、寒いのと、恥ずかしさっていうか、付き合って間もなかったので、そのマフラーで口元を隠して表情を見られないように、っていう心情で詠みました。

 生徒たちより俳句の経験があり、年長者ということもあって、これまでになく口がなめらかな村上さん。6点を獲得した大村潤平さんの「雪合戦ヒートテックは戦闘服」の句に、「雪合戦をしてて暑くなって、1枚上を脱いでヒートテックだけになった姿が、ドラゴンボールに出てくるキャラクターの戦闘服の黒いアンダーウェアに似てるなって映像が浮かびました」とコメントして爆笑を誘います。「プレゼント交換中身は白タオル(比菜)」という句にちなんで、高柳先生から「プレゼント交換の思い出はありますか?」と振られると、「僕ら芸人は毎年、今田(耕司)さんとか独身の人が集まって5000円っていう値段設定でプレゼントを用意して、最後みんなで投票してビリだった人が来年1万円になるっていうルールで交換会をやってるんです」と明かしました。

 村上さんが発言するたびになぜか笑いか起きるというリラックスムードではありましたが、この日は笑いが取れても肝心の句は点が取れません。句会の終盤になって「擽れど無言のフィギュアクリスマス」がかろうじて高柳さんの選に入りました。その高柳さんも「足引き摺る乞食風花商店街」が村上さんの選に入ったのみ。ここからはそんな大人ふたりの句会の感想を、対談風にまとめて紹介します。

一人クリスマスのみじめさをさらけ出す

高柳:案の定、(高柳さんの句に生徒からの点が)全然入らなかったですね。「足引き摺る乞食風花商店街」を村上さんに取ってもらってよかったなあと。ゼロ点だとさすがに・・・・・・。あいつなんか偉そうなこと言ってるけど、作るのはたいしたことないぞって思われてもアレですからね。

村上:僕、「風花」っていう季語がすごい好きなんです。それで選んだみたいなところもあります。

高柳:あんま褒めてないですね。

村上:そんなことないですけど、句全体がいわゆるものさびしい空気、雰囲気じゃないですか。そこに風花っていう、どっかに残ってた雪が少し舞い込んできた感じがさみしくもあり、雪自体が美しくもありっていう状態が緊張感あるなと思いました。

高柳:村上さんの「擽れど無言のフィギュアクリスマス」は、アニメとかのキャラクターの人形の足をこちょこちょくすぐって、何も答えてくれないけど楽しいっていう不気味さが、今日の「一人でクリスマス」系の句では突出して気持ち悪かったのでいただきました。

村上:一人でクリスマスしてる部屋をもしのぞかれたとしたら、どんなことが一番みじめかって考えたんです。そのみじめさをさらけ出したところにみんなの共感があるな、っていう風に思ったので。

高柳:気持ち悪いところとかダメなところとかを果敢にさらけ出しちゃうのが、村上さんのいいところなんじゃないかなあ。そういう個性をもった人ってあんまりいないと思うんですよね。俗に落とし過ぎちゃうと俳句らしい格から遠ざかっちゃうので、きわどい方向ではあるんですけど、ちゃんと格が保てるバランス感覚があるんだと思います。「粉雪や」と「稽古場」の句は、ちょっと守りに入っちゃってる気はしますね。「勉強した」って感じがしちゃうのかな。

村上:おっしゃるとおりだと思います。取り合わせ(配合)って宿題を考えた時に、雪って何とでも取り合わせられるし、ロマンチックになるし、ドラマチックにもなるんで、逆に雪と何かをぶつけて新しさを出す、っていうのがすごくむずかしいなって思ったんですよね。急きょ提出する句が変わったっていう事情もあったんですけど・・・・・・。

高柳:「コンドーム持ってたんだね明の雪」ですね。

男女のショートストーリーから俳句を作る

村上:これも配合っていう宿題があったから、すごく遠いものの中から探していった時に、ちょうど聞いてた音楽の歌詞に「コンドーム」ってフレーズがあったんです。そこからショートストーリーみたいなのを作ったら、なんかこう、女の人とそうなったときに、女の子自身が持ってたとしたら、準備をしてたのか、昔の誰かとのものなのか分からないけど、なんか少し「ん?」って影が宿るっていう感覚がある。そんな朝に雪が降ってると、そういう思いすら美しくなる、っていう。男女がいて雪が降ってれば、むちゃくちゃドラマチックじゃないですか。その男女に何があったかつていう独特なストーリーをつけた方がおもしろいかなっていう。最初これくらいは許容かなと思ったけど、やっぱり出さなくてよかったですね(笑)。

高柳:出してもよかったんですけど、やっぱりちょっと学生には引かれちゃうかなと(笑)。でも俳句としてはよく出来ていると思います。とくに「明の」がよく効いています。「夜の」では当たり前で、「明の」だからこそドラマが生まれています。「コンドーム持ってたんだね」という生活の中の話し言葉と、「明の雪」という美しく雅な季語という、本来合わないものを大胆に十七音に同居させているところに、配合の面白さが発揮されています。村上さんは「プレバト!!」でも名人になっていらっしゃいますし、テクニックは十分身についていらっしゃるでしょうから、テクニックでは超えられない壁を越えていくのが今後の課題なんでしょうね。

村上:ただその感覚こそ、むちゃくちゃむずかしくて。結局、何で超えられるか分からないままだからなあ。探求は努力、あきらめないってことだけど、感覚自体は結局分からないままですよね。

高柳:今日、村上さんが特選で取られた「雪の壁文具の試し書き用紙(比菜)」の句評の中で、「理屈じゃないんだけどなんかひかれるものがあって取った」っておっしゃってましたよね。謎は謎のままとして受け止めて。あれ、すごく大事なところなんじゃないかと思いました。俳句って計算して作っちゃうとつまらなくなってしまって、自分の意識しないところからふっと出てきたような句がおもしろかったりするんですよ。「これ、確かに自分の句帖に書いてあるけど本当に俺が作ったのかなあ」みたいな句が意外によかったりもするので、自選する時にそういう句も勇気をもって残しておくこと。あとは、過去の句を見てみるといいかもしれませんね。平成にもすばらしい句は生まれているんだけど、やっぱり過去の句の方がそれぞれの個性が色濃く出ているように私は感じます。最近はテクニック的には洗練されているんですけど、それがためにむしろ無個性化しちゃってるところがあって、村上さんにはそっちの方には行ってほしくないなあという感じがします。現代版・一茶とか、現代版・(西東)三鬼みたいになってほしいですね。

 【俳句修行、次回もお楽しみに!】