福島県の「すごいおっちゃん」が無名だった現代美術家と出会い、力を合わせて壮大な作品を世に送り出してきた。そんな歩みを追った『空をゆく巨人』(集英社)が刊行された。著者の川内有緒さんは本作で昨年、開高健ノンフィクション賞を受けている。
すごいおっちゃんとは、福島県いわき市の、生まれながらの商売人、志賀忠重さんのこと。アートへの興味はないが、〈普通ではできないことをどうやって実現するのかを考えるのが好き〉という器の大きな人だ。
1980年代の終わり、縁あって中国福建省生まれの現代美術家、蔡國強(ツァイグオチャン)さんと出会い、意気投合した。海に導火線をひいて炎を走らせる、といった蔡さんならではの構想を、志賀さんと仲間たちのチームがかたちにする。そんな創作活動が進んだ。蔡さんはニューヨークに渡り、現代美術界のスターになるが、深い間柄は変わらず、活動の舞台は広がっていく。
2011年、東日本大震災が発生し、福島第一原発事故の影響が、いわきに及んだ。志賀さんは蔡さんとともに、地元に蔡さんの作品や子どもたちの絵などを展示する「いわき回廊美術館」を開いた。〈こうして多くを失ったいまだからこそ、世界に誇れるような場所を故郷につくりたい〉。志賀さんの抱く思いから、9万9千本の桜を250年かけて植樹する「いわき万本桜プロジェクト」が周辺の山で進められている。
川内さんは「彼らの破天荒な生き方を知り、一歩踏み出せるような思いを読者に抱いていただければ」と話す。(木元健二)=朝日新聞2019年1月9日掲載