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異色の経歴から道切り開く 時代小説界の新鋭・今村翔吾さん「童の神」

今村翔吾さん

 時代小説界に突如として現れた作家、今村翔吾さん(34)の勢いが止まらない。文庫書き下ろしのシリーズ2作を速いペースで刊行しながら、初の単行本「童(わらべ)の神」(角川春樹事務所)で、デビュー2年目にして直木賞候補に。ダンスインストラクターから転身した異色の経歴や、過密な執筆スケジュールについて聞いた。

元ダンス講師・1日に3作並行執筆・デビュー2年目で直木賞候補

 「いつかは直木賞、とはサイン会とかでも普通に言うてたし、出版社にも『そう待たせない』とか言うてきた」。候補入りについて尋ねると、こんなビッグマウスが返ってきた。「言霊っていうのはあるし、言うて自分を追い込むところもあるから」。今回は受賞を逃したが、「幼い頃から憧れてきた先生らが通ってきた道やから、僕もそこを通りたい。幼心からの夢みたいなところですかね」。

 京都府木津川市生まれ、大津市在住。家業のダンススクールでインストラクターをしていたが、小学5年生のときから歴史と小説が好きな作家志望でもあった。長男として経営にも携わっていたが、30歳の節目に「いまやらへんかったら後悔する」と、執筆生活へ。歴史に関わる仕事を求め、滋賀県守山市の埋蔵文化財調査員として働きながら、二つの短編で伊豆文学賞などを受賞した。

 そして2017年3月、江戸時代の火消(ひけし)たちを主人公にした長編「火喰鳥(ひくいどり) 羽州(うしゅう)ぼろ鳶(とび)組」(祥伝社文庫)でデビュー。藩の予算不足のため衣装もままならず、町人たちに「ぼろ鳶」と揶揄(やゆ)される火消組織の復活劇で手応えをつかむと、18年2月には早くも作家専業に。「正直まだ食べていける自信はなかったんですけど、この道をやると言って家を出たぐらいなんだから、挑戦したいなと思って」

 なかには引き留める編集者もいたが、「向こうはローンとか払える生活レベルを言うてんねんけど、こっちはご飯と半額のコロッケがあったらいけるやん、ていうタイプやから。腹の据わり方が違うんよね」と豪快に笑う。「馬に賭けるわけじゃなくて、自分に賭けるわけやから。頑張り次第でどうにかなるんちゃうか、切り開けるんちゃうかという可能性を信じてた」

 以後は破竹の勢いだ。「羽州ぼろ鳶組」のシリーズは既刊7冊で計45万部の大ヒットに。さらに18年7月には、ワケありの人物をあの手この手で江戸から逃がす「くらまし屋稼業」(ハルキ文庫)のシリーズも始め、既刊3冊、計13万部を積み上げた。

「いまは速球を投げ込むことに全力」

 午前中と午後の夕方まで、夜とで書く作品を替え、同時に3作を並行して進める。朝9時から深夜2~3時、ときには翌朝5時まで書きに書く毎日だ。「別の意味の暇人です。執筆以外やることないんか、こいつ」とおどけてみせるが、「けど絶対こんなこと、長年はできない」とも。

 「いまは速球をいっぱい投げ込む時期なんかなって思うけど、いつかは技巧派ピッチャーに切り替えなあかんときが来る。ただ、その時々に全力で向き合わな、そのタイミングもわからんやろなって思うんですよ」

 角川春樹小説賞にも選ばれた「童の神」(「童神」から改題)は、平安時代に「鬼」や「童」と呼ばれ、差別された辺境の民たちの反乱を描く歴史小説。子どもにダンスを教えた経験から「童」という字の語源を調べ、かつて「奴隷」の意味で使われていたと知ったことから着想した。

 「あまりにも真逆の意味やった。この1文字を変えるための戦いって、かっこよくないかなとふと思ったんです」

 デビュー作から一貫して、社会のつまはじき者に光を当ててきた。ダンス教室に来る不登校の子どもを見て、「なんでこんな子が学校行けへんのやろって不思議に思うような子とかがいっぱいいた。そういう子らが巣立っていくのを見て、諦めないとか、やり直せるとか。青臭いかもしれんけど、そういうのを肌で感じてきた。これが僕の最大の武器かなって思うんです」。(山崎聡)=朝日新聞2019年1月28日掲載