第1位 ヨシタケシンスケ「おしっこちょっぴりもれたろう」(PHP研究所)
ヨシタケさんの下のお子さんの数年前の姿がモデルだという「おしっこちょっぴりもれたろう」。
「このタイトルを考えついた時に、内容はまだなにも決まっていなかったんですけど、担当編集さんに『どうですかね?』と聞いたら、『いきましょう』と(笑)。タイトルの語感だけでゴーサインが出たという、その度胸にびっくりしたんですけど、おかげさまでいい絵本になったと思います」とヨシタケさんは振り返ります。
ヨシタケさんが絵本を作る時にいつも気にしていると語るのが、「絵本のテーマが大人にも子どもにも等しく身につまされる何かがあるか否か」ということ。「現役でおしっこがちょっぴり漏れているお子さんたちと、かつてちょっぴりもれたろうだった大人たち、そして今後5年、10年先に漏れる予定のある方々、みなさんに楽しんでいただけたらいいなと思います」とのヨシタケさんの言葉に会場は笑いに包まれました。
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第2位 ヨシタケシンスケ/作、伊藤亜紗/そうだん「みえるとか、みえないとか」(アリス館)
「みえるとか、みえないとか」は、伊藤亜紗さんの新書『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)をもとに生まれた絵本です。
「テーマがとても難しくて、色々と紆余曲折している間に編集者の依頼から3年も経ってしまったんですけど、何とか形にすることができました。文字で障がいを表現することと絵で障がいを表現することというのは、こんなにも違うのかとやってみて改めて思った部分もあります。何か一つのテーマを考える時に、それについてきてしまうイメージや感情という余分なものがあるんですね。本来のテーマを考えてもらうために、そういう余分なものを丁寧に取り除いていく作業がとても難しかったです」と、ヨシタケさんは生みの苦悩を語ってくれました。
続いて、ふだんは研究者として働く「そうだん」を担当した伊藤さんが登壇。
「私の本は視覚障がい者の本として書いたものですが、『みえるとか みえないとか』には視覚障がい者がほとんど出てきません。例えば、白杖をついた人が頑張ってどこかに行くようなシーンを出してしまった瞬間に、『大変そう』『かわいそう』といった先入観が前に立ってしまって私が伝えたいことが伝わらないんじゃないかとヨシタケさんは考えてくださったんですね。だから、障がいのことを考えるのに障がい者を出さずに3つの宇宙人を通して大事なことを伝えてくださった。このジャンプは本当に感動してびっくりしました」と伊藤さんは話します。
ちなみに、伊藤さんの「そうだん」という見慣れない肩書きは、悩んだ末にたどり着いたものだそう。「一般的に研究者が書いたものを本にする際は『監修』や『原作』という肩書きになりますが、この絵本は私が上から『監修』しているわけでもないし、考えていたものの一番大事なところを表現してくれているけど、全然別物になっている。それで、『そうだん』という肩書きにしました」
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第3位 工藤ノリコ「ノラネコぐんだん アイスのくに」(白泉社)
ワルかわいいノラネコたちが毎回大騒動を起こす「ノラネコぐんだん」シリーズは、累計100万部を突破するほどの人気シリーズです。
「小さいころの感性のまま、自分は大人になった」と語る工藤さん。「小さい時から変わらず考えていることを、経験値が増えて上がった文章の力や絵にまとめる力など大人の力を使って絵本の形にしています。それを編集者さんや書店員さんが手伝ってくれて、私の中の『子ども』と読者の『子ども』が絵本を通じて一緒にいられるということが非常にありがたく、幸せなことだと思っています」と感謝の気持ちを述べました。
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第4位 B・J・ノヴァク/作、おおともたけし/訳「えがない えほん」(早川書房)
絵本なのに絵がないという、この斬新な絵本のことを「擬音語やオノマトペなど、おバカな言葉のオンパレードなんです」という大友さん。原作を見た時に、自分の力では翻訳はできないと、全国2000人の子どもたちに読み聞かせをする中で翻訳をしてきたのだそう。
「こっちがびっくりするくらい子どもたちにウケるんですね。子どもたちが笑い転げる様子に元気をもらいました。けれども、日本における子どもたちの状況は決して笑えるものではない。いじめ、貧困、DV、不登校、そして子どもの自殺が年々増え続けています。読み聞かせをする中で子どもたちからエネルギーと新しい発想をもらったお礼というわけではないんですが、子どもの文化、子どもたちが育つ環境を少しでもよくしていけるようなアクションをし続けたいと思っています」
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第5位 鈴木のりたけ おでこはめえほん❶「けっこんしき」(ブロンズ新社)
「『顔ハメパネルの絵本版でしょ』とよく言われるんですけど、違います」と断固否定する鈴木さん。製本工場で型抜きをする動画を見て、その機械で自分の本も作ってほしいと思い、型抜きの絵本を考え始めたんだとか。そんなちょっと変わった出発点から、開いたページをおでこにハメて色々なキャラになりきるという、新しい発想の絵本が生まれました。
きちんと絵本の遊び方がわかるようなネーミングをつけないといけないと考え、「おでこはめ」という言葉を編集者さんと一緒に作ったといいます。「そういう意味でも、僕の中で色んな挑戦をさせてもらった絵本です」と鈴木さんはいいます。
読み聞かせをすると、勝手にセリフをつけたり、それっぽい仕草をしたりと、「なりきること」を子どもたちが楽しんでくれるそう。「これは自分が絵本を作った時には想像していなくて、そういう楽しみ方を現場の書店員さんや子どもたちが見つけてくれたのは発見でした。これからもそんな参加型の絵本を作れたらいいなと思います」
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第6位 ペク・ヒナ/作、長谷川義史/訳「あめだま」(ブロンズ新社)
「あめだま」の絵は描画ではなく、ペク・ヒナさんが制作した人形と背景を撮影した写真で構成されています。これがペクさんの絵本づくりのスタイルなんだそう。
30年前に韓国で「MOE」を見て作家になりたいと思ったというペクさん。「MOEの大賞に選んでいただいてうれしいです。私が日ごろ尊敬をしている長谷川先生が素晴らしい翻訳をしてくださり、皆さんにこの本で伝えたかったことがしっかりと届いたのではないかと思っています。この絵本は十数年前に文字で書いたものが原案で、初案はとても平凡な物語だったと思うのですが、編集者と一緒に徐々に発展させていき、いい絵本に仕上がったと思います。私はしばらく挫折モードだったのですが、この賞をいただいて、大きな励みになりました」と受賞の喜びを語ってくれました。
続いて、翻訳を手がけた長谷川さんが挨拶。「ペク・ヒナさんとの絵本はこれが3作目。前作2つは少しユーモアもある絵本なんですけど、この絵本はとても心温まる絵本です。ペク・ヒナさんは人形から背景まで自分ひとりで作っています。そして、それをどこからその角度で写真を撮るかということがとても大切なところでもあります。その写真を撮るところ、ライティングも含めて全部ひとりでされているそうです。光の入り方なども計算されて作り込まれているので、絵の中から感じ取ることはものすごくたくさんあります。絵本は文章以外に絵で語るということも大切なので、同じ絵本を作る者として学ばせてもらうところが多かったです」
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第7位 大森裕子/作、井上好文/監修「パンのずかん」(白泉社)
作者の大森さんが「ただただ美味しそうなものを美味しそうに描こう」と思って作ったという「パンのずかん」。とはいえ、パンならではの難しさもあったようです。
「パンってじっくりと見ていると、表情、香り、重さなど本当に色々です。そういうものを感じられるような絵を描きたいと思いました。私はふだん150色の色鉛筆を使って絵を描くのですが、パンはほぼ全部茶色いんです(笑)。茶系の色はせいぜい15〜20色くらいしかないもの。大丈夫かなと思っていたんですけど、色鉛筆の角度やストロークの速さなどを変えることで、同じ色でもさまざまな表情を見せてくれるということに気がつき、各パンに合った表現ができると思いました」
第8位 おーなり由子/文、はたこうしろう/絵「どしゃぶり」(講談社)
「どしゃぶり」は、おーなりさん・はたさんご夫婦の息子さんがどしゃぶりの中、大喜びで遊んでいた時のことがもとになっているという絵本。
ご夫婦を代表しておーなりさんが登壇し、「暑い時の雨がすごく好きです。迫ってくる雲が怖かったり、パッと大雨になって世界が変わってしまったかと思いきや、そのあと嘘のように晴れたりするのをいつも不思議だな、面白いなと思っていて、その時に感じる匂いや音、感覚を絵本の中に入れたいなと思いました。子どもが読むと自分の体験のような感じがするかもしれないし、大人が読むとその人の中の子どもが飛び出してくるような絵本になったんじゃないかなと思います」と絵本に込めた思いをお話してくれました。
第9位 minchi(みんち)「ごみじゃない!」(PHP研究所)
minchiさんの娘さんの行動がきっかけになって生まれたという「ごみじゃない」。娘さんがトイレットペーパーの芯や消しゴムの消しかす、毛糸の切れ端などを宝物のようにたくさん集めていたのだそうです。最初はどんどん増えていく“宝の山”に困惑していたそうですが、自分も子どもの頃に同じようなことをしていたことを思い出したといいます。
「思い出したら、素敵で楽しいことだったなと思い、それを紹介する図鑑のような絵本を作りたいと思ったんです。この絵本は、娘の行動だけじゃなくて、私の子どもの頃の行動も混ざり合っているので、娘と私の共同作になっています」
第10位 デイビッド・リッチフィールド/作、俵万智/訳「クマと森のピアノ」(ポプラ社)
残念ながら、作者のデイビッド・リッチフィールドさん、翻訳を担当した俵万智さんともに贈賞式には欠席でしたが、俵さんからビデオレターが届いていました。
「絵本というのは私も小さい時から触れてきて、読んでもらった時間が今でも自分の心の宝物になっていますし、大人になって息子に読んであげた時間も宝物になっています。今は息子は中学生になって読んであげる時間はないですけど、本当に期間限定の幸せだったなと感じています。その期間限定の幸せな時間に『クマと森のピアノ』が選ばれて届いていったらうれしいなと思いますし、今回をきっかけに幸せな時間がこの世に生まれてくれたらこんなに幸せなことはないなと感じています」
(構成:岩本恵美)