私大入試真っ盛りである。ことさら短い2月の空気には、芽吹きや新生活に向かって全てが弾(はじ)けだす直前の胎動のようなものを感じる。そんな折に読みたいのが本作だ。
過疎化した海辺の町に住む岩倉美津未。首席で東京の高校に進学した彼女にはカンペキな人生設計がある。しかし、思いとは裏腹に、入学式当日に悪目立ちしてしまう。
とはいえ本作は、上京したばかりの女子高生が急激な環境の変化からナイーブになってしまう話ではない。自分を繕いがちなミカに、過去を隠したいイケメンの志摩、堅物の誠。そんなクラスメイトに対し、周りに合わせて己の発言を矯正しようとする様子のない美津未を包む空気はいい意味で弛緩(しかん)している。近くに居ると緊張が解けて一息つけるからか、周囲もゆるやかに感化されてゆく。そして、恋というものがよくわかっていない美津未にもまた、今まで味わったことのない感情が芽生え始める。
著者は新しい人間関係が築かれる過程で起きる感覚のズレや小さな摩擦、その修復に至るまでを微笑(ほほえ)ましいエピソードのなかで丁寧に描いていく。綺麗事(きれいごと)だけではないが、けして悪くない血の通った描写に、心が温かくなった。=朝日新聞2019年2月9日掲載
編集部一押し!
-
杉江松恋「日出る処のニューヒット」 深町秋生「血は争えない」 避けられない運命描く本格ピカレスク小説(第38回) 杉江松恋
-
-
朝宮運河のホラーワールド渉猟 目からうろこのホラー映画講義 「男と女とチェーンソー」訳者・小島朋美さんインタビュー 朝宮運河
-
-
中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 故障者続出、でも思いがけない味方は日々現れる。河崎秋子「肉弾」のように 中江有里 中江有里
-
インタビュー 樋勝朋巳さん「くまだマークのまいにち」インタビュー 日記に表れる、本当の気持ち 大和田佳世
-
展覧会、もっと楽しむ 「エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし」開催 日本語版出版から50年 ロングセラー絵本の原画を全公開 加治佐志津
-
トピック 【PR 光文社・創英社・みすず書房・ミネルヴァ書房】プレゼント 朝日新聞1面広告の本、好書好日メルマガ読者計20名様に 好書好日編集部
-
トピック 【PR 光文社・創英社・みすず書房・ミネルヴァ書房】プレゼント 朝日新聞1面広告の本、好書好日メルマガ読者計20名様に
-
コラム 「海をわたる言葉 翻訳家ふたりの往復書簡」中江有里さん書評 出逢いの不思議が生んだもう一つの〝家族〟 PR by 集英社
-
トピック 【プレゼント】柄谷行人さん最新作「私の謎 柄谷行人回想録」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 平石さなぎさん「ギアをあげて、風を鳴らして」インタビュー 描いてわかった「シスターフッド小説」の魅力 PR by 集英社
-
インタビュー 江國香織さん「外の世界の話を聞かせて」インタビュー 頭の風通し良く、気持ちさっぱり自由になって PR by 集英社
-
インタビュー 【サイン入り本プレゼント】一木けいさん「嵐の中で踊れ」インタビュー 避難所で起きた再生の群像劇 PR by NHK出版