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「昆虫考古学」 遺物に眠るムシから名推理! 朝日新聞書評から

評者: 山室恭子 / 朝⽇新聞掲載:2019年03月09日
昆虫考古学 (角川選書) 著者:小畑弘己 出版社:KADOKAWA ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784047036451
発売⽇: 2018/12/21
サイズ: 19cm/234p

昆虫考古学 [著]小畑弘己

 キーンコーンカーンコーン。5時間め、理科の時間だ。今日は、みんな大好き、うんこと虫のぞわぞわしたお話、行ってみよう。
 大昔のうんこはフンセキ(糞石)っていうカチカチの化石になります。そこから寄生虫の卵が見つかることがあって、で、寄生虫は食べ物に紛れて人間の体に入ってくるから、種類を調べると、そのうんこをした人間が何を食べてたのか分かります。有明海の縄文人が、今は温暖化でいなくなったサクラマスを食べてた、とかね。
 福岡県にはコウロカン(鴻臚館)っていう外国のお客様をもてなす平安時代の建物があります。そこのトイレからブタ由来の寄生虫の卵が見つかりました。当時の日本人はブタを食べなかったから、これは中国や朝鮮半島からのお客様のうんこで、一緒にベニバナの花粉も見つかったので、おなかが痛くて漢方薬飲んでたらしい、なんてことが、うんこ研究から分かっちゃうんです。すごいよね。
 さてさて、そんなうんこ研究が大好きなオバタ先生(今日のお話のネタ元だよ)、ただいま大熱中してるのは土器から出てくる虫たちです。土器、ほら縄文式土器のうねうねしてるやつ、あれって土をこねて形にしたあと、焼いて固めるんだけど、その時に土に虫が紛れ込むと、一緒に焼かれて跡が残ります。これはアッコン(圧痕)と呼ばれて、土器の表面をよおく観察すると見分けられます。で、日本の土器アッコンの9割以上がコクゾウムシっていう、ちっちゃな昆虫なのです。
 北海道の土器を調査していた3年前のある日の午後、オバタ先生はとんでもないモノを発見します。ある土器の底いちめんにコクゾウムシのアッコンがあったので、X線CTスキャナーという機械で調べてみたら、いるわいるわ、なんと501匹のコクゾウムシが1個の土器にぎっしり詰まっていたのです。うげーっ。
 なんじゃあこりゃあ。偶然ではありえません。縄文人は明らかに意図的にコクゾウムシを土器に練り込んでいます。何のため?
 「コクゾウムシを研究するために生まれてきた」と自負するオバタ先生、考えに考えました。
 結論。このコクゾウムシはクリを食べていた。虫が卵からかえるとは知らない縄文人は、クリから湧いてくるコクゾウムシをクリの化身と考えた。そこで、土に種をまくように、土器という大地にクリの化身を埋め込んで、クリの豊作を祈願した。
 名推理だと思わない? こんなふうに縄文人の気持ちに寄り添えるオバタ先生、すてきだなあ。
 さあ、みんなは、どんな土器を作りたい? 黒板に夢のマイ土器を描いてみよう。よーい、どん!
    ◇
 おばた・ひろき 1959年生まれ。熊本大教授(考古学・東北アジア先史学)。縄文の農耕・生活史の復元を研究している。『タネをまく縄文人 最新科学が覆す農耕の起源』で古代歴史文化賞大賞受賞。