「大政翼賛会のメディアミックス」他1冊 人気アニメの風景 戦中に原型
ISBN: 9784582454536
発売⽇: 2018/12/12
サイズ: 19cm/303p
ISBN: 9784065144763
発売⽇: 2018/12/27
サイズ: 18cm/461p
大政翼賛会のメディアミックス 「翼賛一家」と参加するファシズム/手塚治虫と戦時下メディア理論 文化工作・記録映画・機械芸術 [著]大塚英志
戦後の国民的人気アニメを通じ、誰もが当たり前のものとして受け入れている「家族」と「町内」の風景が、実は、戦中にプロパガンダのために作り出されたメディアの産物に出自を持つ、としたらどうだろう。事実、評者はそれらを、戦後民主主義に特有の平和な暮らしの描写と考えてきた。だが、『大政翼賛会のメディアミックス』を読むと、ことはそう単純でないことがわかる。これらは戦下の大政翼賛会によって管理された漫画、その名も「翼賛一家」によって統制的に作り出された、戦時に特有の「日常」を戦後に引き継ぐものかもしれないからだ。
加えて「翼賛一家」は、読者によるいわゆる二次創作や、歌謡や小説など他ジャンルへの翻案にも進んで開かれた、今で言う「メディアミックス」を最初から目的としていた。その様子には、今ちまたで見られる最新のメディアが生み出す風景とさしたる違いがない(実際、「ニコニコ共栄圏」なる言葉まで登場する)。著者はそれを「参加するファシズム」と呼び、私たちは、実は「表現させられている」のではないか、と問う。
そんな参加者の一人に、戦時中の手塚治虫もいた。戦後の手塚はむしろ、そうした家族と町内の風景からは距離を取り、科学的知識に裏付けられた壮大なストーリーの世界へと「空想」力を飛翔させたかに見える。だが、そうした「映画」的な手法もまた、戦時中に国策の一環として位置付けられ、高度に「機械芸術化」された「文化映画」の手法を手塚なりに踏襲し、乗り越えた先に結実したものだった。『手塚治虫と戦時下メディア理論』を読むと、そこにどれだけの理論や方法の積み重ねがあったかが、新たな史料を通じて克明に浮かび上がってくる。
手塚はそのことに誰よりも意識的だった。忘れていたのは、私たちのほうだったのだ。今人気の大衆文化のほとんどが、その原型を戦時中に作り出されたということを。
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おおつか・えいじ 1958年生まれ。批評家。著書に『感情化する社会』、まんが原作者として『恋する民俗学者』など。