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正しい道はひとつじゃない ユーフラテスの絵本「コんガらガっち どっちにすすむ?の本」

文:柿本礼子、写真:有村蓮

おれ、いぐら!/いるかともぐらが/こんがらがって できた せいぶつ。/よろしくー。『コんガらガっち どっちにすすむ?の本』(小学館)より

――くりくりとした目の、黒い生き物がひょいっと手をあげている。登場人物は、全て2種類の生き物が「こんがらがって」できた空想の生物だ。例えば、たことからすがこんがらがった「たらす」なんて生き物も。見ていると、こんな生き物がいるような気になってくるから不思議だ。「朝日小学生新聞」では連載の4コマ漫画として知られているが、絵本も子供に大人気。『コんガらガっち どっちにすすむ?の本』は2009年に発売されて以降、現時点で25刷を重ね、5冊のシリーズ累計は100万部に手が届く勢いで、中国語、仏語、伊語版も出版されている。作るのは、Eテレでおなじみ「ピタゴラスイッチ」を制作するクリエイティブ・グループ「ユーフラテス」の貝塚智子さんと、うえ田みおさんだ。二人はユーフラテス設立時からのメンバーでもある。

貝塚:ユーフラテスを作るにあたってまず「ユーフラテス準備委員会」をひらき、何をやりたいか皆で話し合いました。「ピタゴラスイッチ」には設立前から携わっていたのですが、ユーフラテスとして新しく取り組みたいことをいくつか考えた中に「絵本の制作」と「新しい考え方のキャラクター開発」というのがあって。そこへ明治製菓さんから、サイコロキャラメル80周年の特別バージョンをパッケージデザインしてほしいという依頼がありました。

うえ田:佐藤先生(※ユーフラテス代表。二人の大学時代のゼミ担当教授でもある)と3人でいろいろ企画する中で、「2つのサイコロに動物の上半身と下半身を分けて描くと、サイコロを回すことで別の動物が組み合わさった生物ができる」という案が出て、私がデザインしてみたんです。

明治製菓のサイコロキャラメル(ユーフラテス提供)
明治製菓のサイコロキャラメル(ユーフラテス提供)

うえ田:「コんガらガっち」のキャラクターは、12種類の動物の上半身と下半身の組み合わせで12×12=144通りにもなります。簡単な掛け合わせのルールで、たくさんの奇妙な生物が、自動的に生成されてしまう。面白い!と盛り上がりました。

貝塚:名前もいっしょにこんがらがるっていうのもいいなと思いました。その中でも、いるかともぐらでできた「いぐら」が、飄々として面白い見た目だったので、メインキャラクターに決めました。そのあとすぐに朝日小学生新聞で4コマ漫画の連載が始まり、同時に絵本も作ろうと動き出しました。

うえ田:それまで、私は「フレーミー」や「10本アニメ」(「ピタゴラスイッチ」内のコーナー)のアニメーションを作っていたのですが、絵を描くのは苦手なんです。だけどコんガらガっちのキャラクターデザインを担当することになってしまって。

絵本の「いぐら」は、私の性格が半分乗り移ったようなキャラクターなので、自然体で描いています。(たことからすがこんがらがった)「たらす」もかわいくて大好きなので、ひいきして多く登場させていますね。制作の流れは、まずお話の構造を二人で考えて、それを私が絵に起こしながらおもしろ要素を追加していき、貝塚が整理して、最後また二人で細かく修正します。

貝塚:普段ピタゴラスイッチのコーナーなどを企画するときは、考え方がむきだしのラディカルな表現を目指していますが、絵本はそれだけだとすぐに飽きてしまいます。うえ田が描きこむディティールで、世界にぐっと魅力が増して、何度読み返しても楽しいものになっていく。独特の「コんガらガっち」らしさが出てきます。この辺りはうえ田頼みですね。

先ほども少し話しましたが、ユーフラテスとして新しい絵本のあり方みたいなのをずっと模索していました。最初に考えたのは、「読み手が関われる、参加できる絵本って面白い」ということです。絵本は動かないし、時間が自由なメディアです。その中で、子供の読者でもできることを考えた時に、「選択」することはできるな、って思ったんです。

「コんガらガっち」シリーズは分岐型の道がページをまたいで繋がっていて、その道を指で辿っていくとゴールに着くという構造です。ゴールが1つの時もあれば4つの時もある。どっちの道に行っても、それぞれの展開がある。正しい道は1つではないし、どっちに進んでも大丈夫。「道を選ぶ」ことで本に参加できて、読者は主体的になれるんです。

『コんガらガっち どっちにすすむ?の本』(小学館)より
『コんガらガっち どっちにすすむ?の本』(小学館)より

うえ田:今までにない絵本なので、自分たちがやる価値があるなって思いました。出してすぐに良い反響がたくさんもらえて嬉しかったですね。

貝塚:すごかった。出版するまでは本当に受け入れられるのかな?って不安で。心の中では静かに、すごく面白い絵本ができたと思う一方、果たしてこれは世の中に届くんだろうかっていう思いがありました。絵本と同時に4コマ漫画の単行本も出版したんですが……。

うえ田:貝塚は、4コマ漫画の方が絶対売れると思っていたみたいで(笑)。もちろんどちらもかなりの自信作なんですが。素敵な絵だとか、いい話だとか、いわゆる「良い絵本」とされる要素がない分、「参加できる本」という新しいコンセプトが、確かに子供たちに受け入れられたのだろうと思います。

貝塚:線もきれいにしようと思えば出来るんですけど、あえてそうせずに、ラフを生かした線にしています。結果的に子供も描けそうというか、親しみが出てよかったのかもしれません。

————絵本の中には、お腹をすかせた「いぐら」が食堂にお昼を食べにくる、というシーンがある。丼の上にのせるおかずは何にする? 食べたい選択肢は2つになり、4つにわかれ、8つにわかれ……。自分だけの丼が出来上がる。こんなプロセスを楽しむページ展開は、二人のどんなバックボーンから生まれているのだろう?

貝塚:子供の頃好きだった絵本は『ノンタン』(キヨノサチコ)ですね。3歳の時には空で暗記してたそうです。音がいちいち良くて、だから覚えちゃったんでしょうね。線がギザギザしてるところも言葉にならないなにかを感じていた覚えがあります。その頃受け取れる感受容量みたいなものをオーバーする感じがあって。絵本を読んでいるときは、「本対自分」みたいな世界にいたのを覚えています。

うえ田:私は「さんすう文庫」シリーズ(藤沢市算数教育研究会)が好きでした。あとは「科学のアルバム」シリーズに出てきた、家の外に秘密基地を建てて、そこで天気を観測する、みたいな世界に憧れていました。遊びでいうとお人形遊びは苦手で。でも(人形の住む)部屋を作るのは好きなんです。箱の中に布団や机を配置していくのは楽しくていろいろ工夫するんだけど、その先にあるごっこ遊びには全然興味がなくて、部屋が出来上がったところで終わってしまう。空想するのが苦手な子供だったと思います。

貝塚:私もそうだけど、うえ田もあんまり「物語」を作ることには興味がなくて。だから絵本を作るときは、がんばってストーリーを考えているんです……。

うえ田:コんガらガっちの1話目は「いぐら」が「たらす」の家に遊びに行く話なんですが、家までの道のりがお話になっていて、着いたところで終わりなんです。担当の編集者さんに「普通のお話は、目的地に着いたあとに何か良いこととか起こるものですよね」って言われて。ストーリーの作り方の基本として、最後に山場がないといけないとか、そういう意識がなかったことに、言われて初めて気づきました。でもゴールに至るまでのプロセスに、ワクワクとかハラハラとかがいっぱい詰まっているので、そこを楽しんでもらえればよいかと。

貝塚:自分としては子供の時に好きだった絵本とか夢中になった遊びとか、そういうものが今も生きている気がします。「コんガらガっち」には一見メッセージ性はないんですが、すごく面白いとか夢中になるっていう経験を与えることが一番の目的というか、自分を忘れて没頭できるようなものを作りたいと思っていて。その時間が、大げさかもしれないですが、大人になってからの生きる力のようなものになるといいなと。

うえ田:本の最後に、担当の方がまとめてくれた紹介文があるんですけど、「きみのすすむみちは きみがきめるんだ」って。言語化してくれたなと嬉しかった。

貝塚:選択に正解なんて、ないんですよね。それがこの本でやりたかったことの一つ。どっちに行っても間違いじゃないし、何回もやり直しできる。そんなメッセージを、言葉ではなく、あり方として本に込められたとしたら、それは大きかったと思います。