ランドマーク商品という言葉がある。これはヒットし、ロングセラーになるだけでなく、人々の生活様式や価値観を一変させるパワーをもつ商品を指す。
この日本発のランドマーク商品の筆頭に挙げられるインストタントラーメンは、今や国民食から世界食・宇宙食となった。その生みの親、安藤百福の伝記や語録などを収めた本書は「転んでもただでは起きるな。そこらへんの土でもつかんで来い」という精神で駆け抜けた起業家の生涯とともに日本近現代の歩みが二重写しとなってくる。
植民地だった台湾に生まれた百福は、二十二歳でメリヤス販売会社を起こし、戦時中は機械部品・幻灯機・バラック住宅などを扱う。戦後は塩・栄養剤を製造し、信用組合の理事長となって破産。その間には憲兵隊で拷問にあい、脱税容疑で巣鴨プリズンに約二年間収監される。
そして、安く、うまく、衛生的で保存性と簡便性がある商品として、一九五八年にチキンラーメンを発売。この年、東京タワーが開業、ミッチーブームが起き、テレビ受信契約数は一〇〇万を突破した。同じ年、流通革命を掲げる中内㓛がスーパーチェーン店をオープンし、チキンラーメンを客寄せ目玉商品としたことで大量販売ルートが開かれる。さらに、テレビCMを活用し、総合商社と販売特約契約を結ぶ販売手法を開発したことが食文化の革新を促した。
こうして「人類は麺類」となっていく軌跡が伝記編で描かれるが、政治家や官庁との関係が強調されているのは、人との繫(つな)がりの重要性を示すためなのであろうか。また、「日清食品社員のバイブル」と銘打たれた語録編と年頭所感編は、七転び八起きで成功した人の言葉であるだけに意表をつくものも多く、会社の訓示などでも使えるし、自己啓発本にもなるのだろう。
個人的に一番首肯した言葉は、「よい商品と売れる商品とは違う」である。この言葉こそ、本という商品に最も当てはまるのではないだろうか。
◇
中公文庫・637円=6刷12万部。13年刊行。安藤らをモデルにしたNHKの朝ドラ「まんぷく」放送中(今月まで)。「不屈の精神に元気が出る、といった反響がある」と担当編集者。=朝日新聞2019年3月23日掲載
編集部一押し!
-
あなたに贈る本 小説家の諸田玲子さんが薦める3冊 若者たちへ いま手にとってみてほしい本 朝日新聞社
-
-
ミュージシャンたちの読書メソッド cero高城晶平さんが選ぶ5冊 スピノザからベンヤミンに誘われ、ありえた世界の可能性を求めて 李恩知
-
-
マンガ今昔物語 奥浩哉が原点の「リアルな性転換」に改めて向き合う「還暦姫」(第156回) 伊藤和弘
-
インタビュー 「本とは何か」美学者・難波優輝さんインタビュー「読んでいないときが、実は一番読めている」 阿部花恵
-
朝宮運河のホラーワールド渉猟 “可愛い怪物”に操られる人たち 阿泉来堂さんの侵略ホラー「忌み児の町」インタビュー 朝宮運河
-
今、注目の絵本! 「絵本ナビプラチナブック」 絵本ナビ編集長おすすめの新刊絵本11冊は…? 「NEXTプラチナブック」(2026年5月選定) 磯崎園子
-
トピック 【PR 光文社・創英社・みすず書房・ミネルヴァ書房】プレゼント 朝日新聞1面広告の本、好書好日メルマガ読者計20名様に
-
コラム 「海をわたる言葉 翻訳家ふたりの往復書簡」中江有里さん書評 出逢いの不思議が生んだもう一つの〝家族〟 PR by 集英社
-
トピック 【プレゼント】柄谷行人さん最新作「私の謎 柄谷行人回想録」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 平石さなぎさん「ギアをあげて、風を鳴らして」インタビュー 描いてわかった「シスターフッド小説」の魅力 PR by 集英社
-
インタビュー 江國香織さん「外の世界の話を聞かせて」インタビュー 頭の風通し良く、気持ちさっぱり自由になって PR by 集英社
-
インタビュー 【サイン入り本プレゼント】一木けいさん「嵐の中で踊れ」インタビュー 避難所で起きた再生の群像劇 PR by NHK出版