「家は買うべき? 借りるべき?」「20代は貯めるお金なんてないんですけど!」「ブラック企業に勤めるとお金で損をする?」……。悩みが絶えないのに、実はあまり知らないお金の話。2000年以降に成人になった“ミレニアル世代”に向けて、リアルなお金の貯め方・使い方・増やし方を書いた『ミレニアル世代のお金のリアル』(フォレスト出版)の著者・横川楓さん(28)に、これからのお金の話を聞きました。
年金に保険に…そもそもお金の基本が分かっていない?
――ミレニアル世代のお金の専門家として、本を書こうと思ったきっかけを教えてください。
今までの20代向けのお金に関する本は、ある程度お金があることを前提に書かれている本が多いなと思っていました。投資することが当たり前、毎月数万円を貯めることが当たり前。一方で今の20代~30代半ばの人は、お給料も低く、たくさん稼ぐには残業をして、さらに奨学金の返済に追われ、自由に使えるお金が少ない。だから結婚したり、子どもを産むことを躊躇してしまう人が多いように思います。そんな私たちの世代のリアルとはかけ離れていると感じる本が多かったんです。
私は、バブル時代のことは分かりませんし、上の世代のライフプランは分からない。けれど、自分と同世代のお金のことは一番分かると思いました。今の人の等身大の目線で書けるのが私だなと思いました。
「お金の専門家」として活動を始めて4、5年が経ちますが、雑誌等の連載もたくさん頂けているし、SNSの発信で情報が届くので、当初は書籍化には消極的でした。正直、私の周りの友達は本を買わない世代なので、ターゲットとしている、私が伝えたい世代には響かないかなと思って。
でも、ツイッターでは140文字の限界があるし、連載に関しても1本記事を読んで終わらせる人も多いと思うし、私が一貫して伝えたいことをまとめるために、そろそろ本を書いてもいいタイミングかなと思いました。まもなく平成も終わるし、消費税が増税されるタイミングで、今かなと。
実際の反響として、ツイッターで直接感想をいただいたり、インスタグラムのダイレクトメッセージ(DM)が送られてきたりしています。普段本に触れない層にも届いているのかなという実感はありますね。
――お金に関して、ミレニアル世代の特徴はどのような点だと思いますか? また、ミレニアル世代からのお金の相談はどのようなものが多いですか? 本の中では、「手取り20万以下でお金を貯めるには?」「年金ってオワコン? 払わなきゃダメ?」など、リアルな悩みに答えていらっしゃいますよね。
ミレニアル世代は不景気の時代に育っているので、堅実な人が多いと言われています。車や自転車などを共同で使う「シェアリングエコノミー」など、今までなかったサービスが生まれ、利用しやすくなっている世代であり、スマホネイティブ、デジタルネイティブであることも大きな特徴だと思います。
相談は実に多岐に渡りますが、税金のことも、年金のことも、そもそもの基本が分かっていない人が多いなと感じます。学校でお金のことをきちんと教わらずに大人になるので、会社で働いていても、自分で税金を納めるという認識がなく、勝手に給料から天引きされているものぐらいの認識しかない人が多いのではないでしょうか。
会社員だった人が引退して毎月年金としていくらもらっているのか、分かりますか? 答えは男性約16万円、女性約10万円(2016年時点の平均)です。将来はこれよりどんどん減る可能性もありますし、ボーナスもありません。年金以外の収入や蓄えがどれだけ必要かわかると思います。
とは言え、今一人暮らしで毎月ギリギリの生活をしている人も多いはず。具体的にどうお金を貯めればいいのか。本の中では、家賃や通信費、水道光熱費という固定費の見直しや、家計簿のアプリで自分の出費を見直すことなどに触れています。これらをきちんと検討したら年間10万円程度の経費削減につながるかもしれません。今は不用品をお金に換えることができるだけではなく、自分自身のスキルを売って、気軽にお金を稼ぐことができる環境もあります。テクノロジーをうまく活用して、新しい社会ならではの「お金観」を身につけてほしいと思っています。
身近なお金の専門家になりたくて
――横川さん自身は幼い頃からお金に興味があったのですか?
私が小学生の頃、両親が離婚をし、母子家庭で育ちました。母方が会計事務所を経営していたので、お金や経済に関しては幼い頃から触れてきました。
母からはお金の話をいつも聞かされてきましたね。塾代はいくらだ、何にいくらかかる、と。ありがたいことに私は大学院まで行けて恵まれている方だと思いますが、母は私には見せないような苦労もたくさんしていたのだろうと思います。
――それで大学でもお金のことや経済のことを勉強したいと?
実家が会計事務所だったので、経営学部や経済学部も視野にはありましたが、大学では法学部に進学しました。どの職業に就くとしても、法律の知識はすごく大事だと思ったので。でも将来はやはりお金に関する仕事に就こうと思っていたので、税金やライフプラン、経営についてなど幅広く学べるMBA(経営学修士)の大学院に進み24歳で卒業、そのほかファイナンシャルプランナー(AFP)の資格等を取得しました。
――在学中は地下アイドルをされていたそうですね。
はい。アイドルをやったり、配信アプリで生配信をしたりしていました。今でもアイドルは大好きですね。地下アイドルの経歴を公表しているのは、身近な存在になりたかったからです。人間性が見えない専門家にはなりたくなくて、「こんな人がいるんだ」と思ってもらえるきっかけになるかなと思って……。
私、至って普通のアラサー女子で、ポケモンとかセーラームーンとか好きですよ(笑)。auマンデイとレディースデイを使って、お得に映画を見ていますし、5000円以下の洋服ばかり着ていますし、コスメもいわゆるプチプラです。
お金=選択肢が増えるツール
――ミレニアル世代よりも上の世代のお金の使い方を否定するわけではないけれど、ミレニアル世代なりのお金の使い方がある、と本の中で繰り返し強調されています。
はい。今は、私たちの親がしてくれたことを、同じように私たちの子どもにできる時代ではなくなってきていると思うんです。物価も上昇していますし、一回ストップしている社会保険料も今後上がると思いますし、手元に残るお金はどんどん減っている現状があります。
日本の経済が低迷した「失われた20年」が、「失われた30年」になりつつある状況の中で生きていかなければいけない。将来的に子どもができた時に、やりたいことをやらせてあげられるかどうか。自分で知識を得て、動いていかないと難しい時代になってきていると思います。お金のことを知っている人と知らない人の差が広がる時代なんです。
PayPayやLINE Payなどキャッシュレス化が進み、新しいお金に関するサービスもどんどん増えています。使っていた方がポイントがたまったり、お得になったり、便利なことが多い。自分で調べて知識を得たり、行動に移さないと損をしてしまう可能性があります。お金に関する努力や方法は色々あります。投資だけではなくて、例えばポイントを増やすこともお金を増やすことにつながります。
お金があるかないかで、選択の幅が決まります。その差が顕著になっていくと思うんです。知識がなくて取り残されてしまうと、自分や将来の家族の選択肢も狭めてしまう。「賃貸のマンションではなく、自分好みの家をつくりたくなったとき」「子どもが習い事をたくさんやりたいと言い出したとき」「都会の生活に疲れて海外に移住したくなったとき」……。それらはお金がなければ叶えることができない選択肢です。
お金のことってあまり考えたくないし、ぶっちゃけ面倒臭い。でもお金は選択肢を増やすツールとして向き合うべきだと思うんです。お金を貯めなくてはいけないと思うと、テンションが上がらないのですが(笑)、選択肢を増やすものと思うと、まだ気が楽になりますよね。
――最後に横川さんの目標や夢を教えてください。
ミレニアル世代はもちろんですが、今後はもっと下の世代にもお金のことを伝えたいと思っています。私が幼少期からお金のことを色々教えてもらったこともあるので、金融教育に力を入れたいですね。伝え方の問題です。言葉を変えれば、子どもでもお金のことは分かるはず。お金の知識があった方が、これからの人生が生きやすくなってくると思うので。
あと、自然とお金の知識が得られるような絵本や漫画を生み出したいです。子どもから大人までアクセスしやすい作品がつくられたらいいなと思っています。