「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。
今回は、梨木香歩『西の魔女が死んだ』を味わいます。
中学に進学し、学校に行けなくなってしまった主人公のまい。季節が春から初夏へと移り変わろうとする中、まいは「西の魔女」こと、母方のおばあちゃんのもとで過ごすことになります。自然に囲まれた緑豊かな場所で、おばあちゃんから魔女の手ほどきを受けることに。魔女修行の要は、自分で決める力、決めたことをやり遂げる力。およそ1ヶ月にわたる、まいの魔女修行を描いた物語です。
「宝石のジャム」を食べる
いくつか料理が出てきますが、編集部的に一番印象深かったのは、“エスケープ”初日にまいがおばあちゃんと一緒に作ったイチゴジャムでした。
小説では、ジャム作りは、野いちごを摘むところから始まります。
木のまばらなその林の床一面、真っ赤なルビーのような野いちごの群生で覆われていたのだ。
ですが、都会人には野いちごを摘む場所がありません。というわけで、スーパーで美味しそうなイチゴを調達。いまは様々な品種のイチゴがあるので、いろいろ試してみても楽しそうです。
イチゴと砂糖を煮て簡単にできるジャムですが、ある程度煮えてきたらレモン汁を入れると鮮やかな赤になります。ちょっとした理科の実験のようなので、お見逃しなく! ひと口なめてみると、甘さも酸っぱさもほどよいイチゴジャムでした。
まいとおばあちゃんのつくったジャムは、黒にも近い、深い深い、透き通った紅(あか)だった。嘗(な)めると甘酸っぱい、裏の林の草木の味がした。
イチゴのジャム作りを毎年の習慣にしたら、季節の移ろいにも敏感になれそうです。これも魔女に一歩近づくための修行のひとつ、なのかもしれません。