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「笑いの方法」書評 うら寂しい「すがれた」ユーモア

評者: いとうせいこう / 朝⽇新聞掲載:2019年04月13日
笑いの方法 あるいはニコライ・ゴーゴリ 増補新装版 著者:後藤 明生 出版社:つかだま書房 ジャンル:小説

ISBN: 9784908624063
発売⽇: 2019/02/05
サイズ: 22cm/327p

笑いの方法 あるいはニコライ・ゴーゴリ【増補新装版】 [著]後藤明生

 つかだま書房は「内向の世代」とも称された後藤明生の作品を主に扱う出版元で、立ち上がると矢継ぎ早に六冊ほどを世に送り出した。最近ホームページでは自分たちが流通させる米も売り始めており、さすが後藤明生の小説のように一筋縄ではいかない。どこかひょうひょうとしている。
 その出版元の新刊が『笑いの方法――あるいはニコライ・ゴーゴリ』である。これはロシア近代文学の祖ゴーゴリに関する後藤明生の重要な文章を見事に集めた一冊で、末尾には後藤の翻訳による『鼻』、さらに後藤が師である横田瑞穂とともに訳した『外套』が置かれている。どちらも名訳だ。
 この二篇の名作を読むだけでも、後藤明生が生涯にわたって深く影響を受けたゴーゴリの、どこに核心を見いだしていたのかがわかる。陰鬱な印象を持たれがちなロシア文学のその奥に、後藤はひたすら「笑い」を求めており、それはおそらく江戸落語などで「すがれた」と評される芸に似たどこかうら寂しい、乾いた、ナンセンス気味のユーモアであろう。真顔で語られるそのおかしな話の連続に、我々は噴き出す。
 しかしむろん後藤は演芸を語りたかったわけではない。むしろ熟練の名人芸を好まず「アミダクジ式」に話をずらし、感動を避け、時にはあえて何も調べずに(調べないふりで)歴史に触れるのが後藤流である。そうでいながら、いつまでもゴーゴリ作品が持つ「笑い」への関心から筆を逸らさず、周囲を経巡り続けた。その足取りや足踏みがそのまま彼の評論や小説として結実したのだ。
 「わたしの考える意味での喜劇は、そもそも何故だかわからないから、喜劇なのである」と後藤は書くが、喜劇を小説に換えればそれはまさしく後藤明生作品の最もよい説明文である。ではなぜ「喜劇」と「小説」が彼において似てしまうのか。その理由、あるいはヒントを我々は本書で知るだろう。
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 ごとう・めいせい 1932~99年。小説家。代表作に『夢かたり』『吉野大夫』『首塚の上のアドバルーン』。