今度のゴールデンウィーク、大学院の同窓会が行われることになった。研究対象も指導教官もまちまちだったため、在学中、皆とそうそうつるんでいたわけではない。いや、正直に言えば、一学年十名程度にもかかわらず、当時は飲み会なぞ誰も企画しなかった。それが珍しく「一度ぐらい集まろう」と声が上がったのだ。
ただとにかくバラバラの面子(めんつ)だけに、全員への一斉連絡の手段がない。いや、それ以前に同期が正確には何人いたのかも、確認の術がない。しかたなくメンバーは「2000年頃に院にいた人」と幅を持たせ、連絡がつく人が適当に心当たりを誘うゆるい集まりとなった。だがその連絡も、「〇〇さんとは年賀状のやりとりがあるから、手紙を書いてみる」「××さんは大学図書館で時々姿を見るから、こまめに通えば会える」という恐るべきアナログぶりだ。
別に同期がみな、古めかしい気質なわけではない。むしろ、それぞれの分野で最先端の仕事に邁進(まいしん)していると言ってもいい。にもかかわらず、何故今回の連絡だけがこうものんびりで、それに誰一人異を唱えないのか。結局のところ、かつての仲間で集まろうと決めた瞬間から、我々はすでに在学当時の時の流れの中に引き戻されているのではないか。そう、「IT革命」との言葉が叫ばれつつもネット普及率は低く、携帯電話も二人に一人しか持っておらず、ラインもツイッターもなかった、あの頃に。
「同窓会をすると昔に戻る」とは誰もが口にする言葉である。しかし実は会の開催を知り、昔の仲間に思いを馳(は)せた瞬間から、すでに「同窓会」は始まっているのだ。
ただのんびりは結構だが、我々の同窓会の参加人数はいまだ不明。日にちこそ決まったものの、集合場所は未定だ。しかし2000年当時は待ち合わせに失敗し、すれ違うことも珍しくなかった。ならば現実の集まりが実現できずとしても、それはそれで我々は「同窓会」を楽しめるのではと思うが、さてどうなるだろう。=朝日新聞2019年4月24日掲載
編集部一押し!
-
文芸時評 深い後悔、大きな許し もがいて歩いて、自分と再会 都甲幸治〈朝日新聞文芸時評25年11月〉 都甲幸治
-
-
インタビュー とあるアラ子さん「ブスなんて言わないで」完結記念インタビュー ルッキズムと向き合い深まった思考 横井周子
-
-
えほん新定番 内田有美さんの絵本「おせち」 アーサー・ビナードさんの英訳版も刊行 新年を寿ぐ料理に込められた祈りを感じて 澤田聡子
-
谷原書店 【谷原店長のオススメ】馬場正尊「あしたの風景を探しに」 建物と街の未来を考えるヒントに満ちている 谷原章介
-
オーサー・ビジット 教室編 自分で考えて選ぶ力、日々の勉強と読書から 小説家・藤岡陽子さん@百枝小学校(大分) 中津海麻子
-
鴻巣友季子の文学潮流 鴻巣友季子の文学潮流(第32回) 堀江敏幸「二月のつぎに七月が」の語りの技法が持つ可能性 鴻巣友季子
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂
-
イベント 戦後80年『スガモプリズン――占領下の「異空間」』 刊行記念トークイベント「誰が、どうやって、戦争の責任をとったのか?――スガモの跡地で考える」8/25開催 PR by 岩波書店
-
インタビュー 「無気力探偵」楠谷佑さん×若林踏さんミステリ小説対談 こだわりは「犯人を絞り込むロジック」 PR by マイナビ出版