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「会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと」山口健太さんインタビュー 「楽しい」こそ、理想の食事指導

文:岩本恵美、写真:斉藤順子

その悩み、会食恐怖症かもしれません

――山口さんの著書で「会食恐怖症」というものを初めて知りました。人前でご飯を食べることに並々ならぬ不安や恐怖を感じる心の病とのことですが、マイナーな病なだけに当事者でも自分が会食恐怖症だとはわかりにくそうですね。

 そうですね。「そもそも名前がついていたんだ」「自分だけが悩んでいたと思っていた」というメールが僕のもとに絶え間なく届いています。日本会食恐怖症克服支援協会のメール会員は現在2000人くらいなのですが、僕が会食恐怖症について発信し始めてからずっと右肩上がりで増え続けていて、今後も会食恐怖症だと気づく人は増えていくんじゃないでしょうか。

 僕の時も、ネットで調べても社交不安症の一つとして紹介されている程度で、あとは心療内科へ行きましょうという情報くらいしかなかったです。2、3年前ですら、そんな感じでした。会食恐怖症は社交不安症の一つの症例ではあるんですけど、ふだん人と話すことは大丈夫でも会食だけダメという人がけっこういるんですよね。

――会食恐怖症の症状としてはどんなものが?

 会食の際に尋常ではない不安が襲ってきて、吐き気やめまい、震えが出たり、ご飯を食べたいという意思はあるものの、ものを飲み込めなくなってしまう嚥下障害があったりします。他にもパニックや発作などの症状もあります。こういうのは当事者でないとなかなかわからない苦しみですね。

 周りの人から見てわかるサインとしては、血の気が引いたように顔面蒼白だったり、未就学の子どもに多いのはゲップやおならをよくしたりすること。緊張すると無意識に空気をたくさん吸うので、体外に出そうとするんですね。あとは、「緘黙(かんもく)」といって、喋らなくなること。友達といるときは楽しく過ごしているような人でも会食のときに喋れなくなるということもあります。

発症のきっかけ、6割は完食指導

――発症のきっかけの6割以上は学校や家庭での完食指導だということも驚きでした。

 子ども時代の完食指導でのトラウマ体験が多いですね。残りの4割は、胃腸の不調から会食の際に嘔吐や気持ち悪くなることに対して恐怖を抱くようになったり、パニック障害の人が人前でパニックを起こして迷惑をかけたくないという理由から発症したりする場合もあります。

――本書では学校給食における完食の強要を「給食ハラスメント」として取り上げています。振り返ってみれば、私が小学生の時も全部食べ終わるまで居残りさせられていた子がいたような……。昔に比べて現状はよくなっているものなのでしょうか?

 おそらくそうだとは思いますけど、いまでも親御さんから相談が届くのでまだ給食ハラスメントはあるのかなと思います。

 全部食べないと皆の前で腹筋という体罰的なことを子どもが受けたという相談があり、私も驚きました。居残りもあるところにはまだあるようです。他にも、時間内に食べられるように給食で「もぐもぐタイム」という私語禁止の時間を設けている学校もけっこうあるんですけど、これも場合によっては給食ハラスメントになりうるんです。もともと給食が好きな小学生の男の子がいたんですが、ある日からお皿が空になると先生が勝手におかわりを盛りつけ始めるようになって、その子は給食が好きだからいっぱい食べるんですけど、私語禁止だから「もういらないです」とも言えない。それがきっかけで給食が嫌いになって不登校にもなってしまったという例もあります。

 あと、先生も先生で、学校の方針や同僚の先生からの圧力もあるようです。ある中学校の先生は、子どものころは給食が好きだったそうなんですけど、いまは生徒に食べさせなくてはいけなくて苦痛だと話していました。

――会食恐怖症になりやすいタイプというのはあるんでしょうか?

 性格的には控えめなタイプ、空気を読むタイプですね。追い詰められたときに泣くのも、「どうして自分はできないんだろう」って自分で自分を必要以上に責めてしまうような人が多い傾向にあります。

 特に給食というシチュエーションは子ども時代にあるもの。若い時、学生時代は価値基準が一番敏感なので、一度ダメという烙印を押されてしまうと強いトラウマになりますね。大人になれば、「違う考えもある」と柔軟になれる部分が出てきますけど、子ども一人だとその考えに至るのは難しいです。

食事を楽しい時間にすることが大切

――会食恐怖症の人を周りはどうサポートすればいいのでしょう?

 食事に誘わないということが一番NGです。普通に誘うというのが大事なんですよね。誘ってもらえる機会がどんどんなくなっていくというのも、ある意味、当事者の悩みなので。ただ、強制はしなくていいです。例えば「嫌だったら断ってもいいけど」とか「全然食べなくてもいいから」っていう前置きをする。それと、実際に当事者の方が言われて嬉しかったとよく聞くのが「一緒に練習しに行こう」という言葉。僕自身も大学時代のバイト先で会食恐怖症のことを告げたら、「まかないを練習だと思って」と言われて楽になりました。

 日本会食恐怖症克服支援協会を立ち上げる際に、会食恐怖症に悩む何人かと会って話してみて、治るものではないと諦めている雰囲気をすごく感じました。あと、どうしたらいいか、治すためのプロセスがわからないという感じも。でも、薬を使わずに会食恐怖症を克服した僕としては、僕と友達になれば会食恐怖症は治るという感覚なんですよ。前向きなことも言うし、食べられない時があっても責めずにむしろ苦手なことに挑戦したことをすごいと言う。会食恐怖症って、そういう人が身近にいれば、よくなるって思うんです。だから、今後は会食恐怖症のコミュニティを各地に作っていきたいなとも思っています。安心して楽しく過ごしてもらうのが一番いい。

――本の中でも、会食の際にリラックスするのが大事と書いていましたね。

 給食でも基本的に居残りがない方が残飯は減るんです。給食が終わる時間が決まっていて、その時間になったら完食するしないに関わらず片付けるというルールにすると、もともとあまり食べられない子も会食恐怖症ぎみの子も、居残りをさせられるという心配がなくなって安心して食欲が出てくる。一方で、普通に食べられるけどおしゃべりばかりしちゃう子も時間内に食べようという意識になる。

 「給食が楽しいクラス」=「残飯が少ないクラス」なんですよ。だから教室の雰囲気を作る先生も重要です。先生が怒ったら教室がシーンってなるし、先生が笑ったら生徒たちも笑う。先生が給食を楽しそうに食べるというのも大事ですよね。

 僕は残飯を減らすということには賛成なんです。食材を大切にするというのは素晴らしいこと。でも、現状のやり方については逆をいっていたり、間違っていたりすることもあるので、正しい方法を教育者や親御さんたちの共通認識にしていきたいですね。

――山口さんが考える理想の食事指導というのはどういうものなんでしょうか?

 ひとことで言うと、「楽しい」があればいい。楽しかったら食べるんですよ。どうやったら楽しく食べられるか、どうしたら安心して食べられるかというのを軸に声をかけたり指導したりするのが正解に限りなく近いんじゃないかなと思います。

「好書好日」掲載記事から

>13人の人格を持つharuさんインタビュー 「生きづらさ」を後ろから支えてくれた彼らと生きる

>限界集落で月1万8000円の生活 「山奥ニート」石井あらたさんが見つけたものとは