1. HOME
  2. インタビュー
  3. 限界集落で月1万8000円の生活 「山奥ニート」石井あらたさんが見つけたものとは

限界集落で月1万8000円の生活 「山奥ニート」石井あらたさんが見つけたものとは

文:土井大輔、写真:光文社、石井あらたさん提供

「最近、アナグマを食べました」

――住民はお年寄り数人だけという山奥の集落で、ニート十数人が一緒に暮らしているということですが、新型コロナウイルスの騒動のさなか、「山奥ニート」の生活に変化はありますか?

 今は見学とか、新規滞在者の受け入れを停止しています。それと町に出稼ぎに行った人が「(集落に)ウイルスを持ち込んだら悪いし」って、帰ってこないってことが起きていて。今、めちゃくちゃ人が少ないんですよ。この家には7人かな。

 それ以外は何ひとつふだんの暮らしと変わっていなくて。みんなでバーベキューもしていますしね。山奥の特権だと思います。都会の皆さんには申しわけないなと。最近はアナグマを食べましたよ。

――アナグマって、タヌキみたいな……。

 そうです。タヌキとイタチのあいだみたいな。飼っている鶏を襲いにくるんです。それが罠にかかったのをさばいて食べました。塩をかけて焼いただけなんですけど、ハーブみたいな香りで。臭みはまったくなくて、肉はちょっとかたいんですけど、噛んでいるうちに香りが広がるんです。

 昔話によく「タヌキ鍋」って出てくるじゃないですか。あのタヌキ鍋って、実はタヌキじゃなくて、アナグマなんですよ。この辺りでもアナグマの鍋のことを「タヌキ鍋」って呼ぶんです。

――「山奥ニート」のみなさんは、そちらで何年くらい暮らしているんですか?

 僕が一番長いんで、7年目。基本的に2年、3年はいます。出ていくときは、基本的にポジティブな理由が多いと思います。山奥でゆっくりできたし、次の一歩を踏み出そうかな、みたいな人が多いかな。

――お互いのことは、どれくらい知ってるのでしょうか?

 全然知らない、本名も知らない人が多いんじゃないかな。フルネームで呼べる人のほうが少ないと思います。僕も本のために話を聞いて、初めて知ったこともたくさんありました。

――新しく加わる人に、どういう人生を送ってきたのか聞かないのですか?

 聞かないですね。聞いたところで、その人がわかるかというとそうでもないと思うし。ボードゲームをやるとその人の人となりがわかるから、それでいいかなっていう。人間性も考え方もなんとなくわかるんです。身の上話はいくらでもウソをつけるし、あまり意味がないと思っていて。それよりはにじみ出るものを読み取ろうかな、と。

山奥では大きな声で話すことがマナー

――石井さんは大学を中退し、実家でひきこもっていたところ、同じくひきこもりだったジョーさんに誘われて山奥に来たと書かれています。山奥での生活に慣れるまでに、どれくらい時間がかかりましたか?

 僕はこっちにきて暮らしが劇的に変わったかというと、そうでもなくて。ずっとひきこもりなんですよ。一貫して。基本的には、実家で暮らしたときのままですね。ずっとゲームをすることもありますし。

 慣れるというか、順応して僕が変わっていくことはあって。たとえば今、こういう風にお話ししているんですけど、僕としては(同じ集落で暮らす)じいさんばあさんとしゃべるモードでしゃべっていて。とにかくハキハキしゃべる。大きな声でしゃべるっていう。聞こえないですから。絶対に「はあ?」って聞き返されるから。

――自分のなかでスイッチを入れるような感覚ですね。

 めちゃくちゃ声を張るようになりましたね。ひきこもりとかニートって基本的にはボソボソとしゃべるじゃないですか。都会だと大きな声でしゃべる人ってなんか怖いし、逆に失礼になる。でもこっちでは、大きな声でしゃべることがマナーなんだって思って。山奥風の話し方になってきました。

――大きな変化はなかった。

 変化はあるんです。2人から始まって、一番多いときで18人いましたから。「やめよう」はないですけど、イヤなことはありますよ。メンバーに出ていってと言わなきゃならないこともありますし。そういうときは一日中憂鬱で。河原でひとり、「なんて言い方をすればわかってもらえるだろうか」と思うこともありますから。

――出ていかなければならないのは、どういう人ですか?

 お金(生活費の1万8000円)を払えない場合と、めちゃくちゃ周りの評判が悪い場合とがあります。あまり出て行かせたくはないんですけどね。

――では、どんな人が「山奥ニート」に向いていると思いますか?

 「ひとりでいることに平気な人」だと思います。共同生活をしているんで誤解されるんですけどね。「山奥ニートになりたいけど、自分はひとりでやりたいな」って。でも僕らは全然、共同作業をしていなくて。誰が何かをやっていても「ああ、やってるな」ってだけで、もちろん手伝うこともありますが、手伝わないことのほうが多いですし。1日中、誰とも話さない日もけっこうありますからね。

外見は違っても中身は同じ「ここは多様性のない社会」

――石井さんは共生舎の近くで猟師見習いをしていた女性と知り合い、2017年にご結婚されているんですよね。結婚後は、どういう生活ですか?

 基本的にはこっち(山奥)で暮らしていて、たまに妻の家に遊びに行くって感じです。妻のことは自分の分身だと思っていて。自分は田舎で山奥の経験値を積んでいるんですけど、妻は会社員で会社員の経験値を積んでいる。2人でいれば経験値は2倍になるんだなって。結婚して思ったのは、結婚している人は「常に経験値が2倍」ってズルいなと(笑)。

――そちらでの暮らしのなかで、学んだことはありますか?

 ここにいるといろんな人が来るんですよ。外国の人も来ますし、病気のある人も来ますし、50歳、60歳の人も来ます。いろんな人が来るんですけど、それは多様性ではないと思っていて。価値観がどこかで同じなんですよね。外見は違うんですけど、中身は一緒なので、ある意味、ここは多様性がない社会だなって思うんです。でも「ムラ」ってそういうものだと思うんですよね。無理に価値観の違う人を放り込むよりは、同じ価値観の人で集まったほうが絶対に幸福度が高いと思うので、安心です。

――石井さん自身は、これからもそちらで暮らすつもりですか?

 僕は山奥を都会にしたいと思っていて。発想のもとが(『ニートの歩き方』などで知られる)phaさんの「ギークハウス」(クリエイターたちが暮らすシェアハウス)があって。でもギークハウスは都会にあって、都会はやっぱり家賃が高いんですよね。だから田舎を都会にしようと。

――どういうことでしょう?

 「都会」といっても、都会を都会たらしめているものって何かなと。人によると思うんですけど。僕は「知らない人と会える」っていうのが都会だと思っていて、見学者とか新しい人を受け入れることで知らない人と出会える機会を作っているんですね。だからこれは「都会」要素。

 本屋さんとか図書館に行けるっていうのも都会のいいところで。それは、みんなで持ち寄った本が本棚に並んでいますし、本を好きな人が新しい本を買ったら、それを読ませてもらってメディアとかサブカルチャーに触れられるわけです。映画もみんなで観れば、映画館。映画館に行くのって、結局、そのときの話題をみんなと共有したいからだと思うんです。ゲームもそう。山奥だと半年遅れくらいのものでも、みんなで観たらそれが話題になるわけですよ。ここなら流行に乗れるわけです。

 あとは、いろんなものを飲んだり食べたりできるっていうのが都会のいいところですけど、これも(共生舎で暮らす)いろんな人が料理してくれるので、いろんなメニューがありますよ。いろんなものが食べられて、しかも100%自炊なので安い。これも都会です。……もう都会ですよね、ここ(笑)。

――その「都会」を充実させていくということですね。山奥ニートのみなさんのように、お金をかけずに日々を楽しむコツはなんですか?

 本でインタビューした子がいいことを言ってました。「お金をかけないと、お金をかけた分、楽しまなければいけないという概念から逃れられる」って。僕は貧乏性だから、映画を観に行くと、1800円分楽しまなきゃなって思っちゃうんですよ。つまらない映画は観たくないし、時間を無駄にしたくないし、投資した分はちゃんと返ってきてほしい。それが、レンタルで100円で観られる映画って、別に楽しもうって思わなくていいじゃないですか。その「楽しんでやろう」っていうのから脱却できると、すごく気持ちが楽になって。素直に楽しいものを楽しめる。楽しめないものは楽しまなくていいって思うんですよね。

 「楽しむためのコツ」なんかいるのかな? みんな、知らないだけだと思いますね。お金をかけずに楽しめることがあるってことを。お金をかけずに楽しめることって誰も宣伝しないですから。「それがあるよ」って言っても誰も得にならないので。街には広告がいっぱいありますけど、それは「お金を使え」って書いてあるのと一緒じゃないですか。お金を使わずに楽しめることはいっぱいあるんですけど、それは自分で探しに行かないと見つけることはできないです。

――Twitterには『「山奥ニート」やってます。』を読んだ人の感想があがっています。どうとらえていますか?

 嬉しいですよ。ありがたいですね。でも現実感がなくて。ネット越しの、画面の中の出来事って、本当かどうかずっと疑ってるんですよ。Twitterでつぶやいている人もみんなAIかもしれないし、悪いことを書く人も、生きているのかわからないですから。現実だって言えるのはこの山奥だけです。この集落でのことだけが僕にとっての現実で。ネットとか東京とか大阪で起きていることは僕にとっては非現実なんです。

――オンラインでインタビューしている私(=ライター)も人間じゃないかも知れない。

 人間だと思ってないですよ(笑)。人間だと思ったらうまくしゃべれないです。最近のCGはすごいな。実写と見まごうばかりだって思ってます。