「酒を食べる」書評 厳しい風土で生き残るための解
ISBN: 9784812218273
発売⽇: 2019/04/07
サイズ: 22cm/203,13p
酒を食べる エチオピア・デラシャを事例として [著]砂野唯
エチオピアに酒を主食とする地域があるという。そこでの暮らしは愉快なのか、それとも過酷なのか。
本書は、その生活や文化を研究した博士論文の改稿で、体験記でもある。
興味を引くテーマ、表紙やタイトルにも誘われる。出だしも快調、200ページ余りを一気に読めると思ったらそうでもなかった。地名や作物、加工過程、初めて見るカタカナ言葉が続出、豊富な数値データは流し読みできない。細かい図解やグラフ、農地の土壌分析の説明では化学式やイオンも登場する。研究成果の根拠ではあるけれど、「学術講演会じゃないから省略してくれ」とつっこみたくなる。
いかん、これでは薦められない本のようだ。
いや、そんなカタカナ言葉は前出に戻って確かめ直し、データはじっくり確認しながら、むしろ、時間をかけて読み進めたくなってくるのだ。きっと未知の社会を知る魅力にひかれ、次々に湧き上がる疑問がひとつずつ解き明かされていくからだろう。
主食としているアルコール3~4%のパルショータってどんな味で、どう作るのかな。それだけで体に必要な栄養は得られるの。
現地の農業、調理法、食文化が丹念な調査をもとに解説される。酒によって得られるカロリー、たんぱく質、ビタミンなどを調べ「総合食品」であることを示しつつ、農作業に必要なエネルギーを対比して、生活の合理性を示していく。
気まぐれな雨で不安定な農業を強いられる地域で生き残れる食生活の解が「主食としての酒」だった。地面に掘った貯蔵庫でモロコシが長期保存される仕組み、酒ばかりの生活で体を壊さない理由も解かれる。
フィールドワークの醍醐味は、好奇心をかき立てられ、机上で想定できない発見にある。それも調査の苦心があってこそ。酒と生活の様々なつながりを行きつ戻りつして読むことで、その喜びをちょっぴり疑似体験できたのかもしれない。
◇
すなの・ゆい 1984年生まれ。京都大大学院研究員などを経て、名古屋大大学院特任助教。専門は生態人類学。