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奥村彪生「日本料理とは何か」書評 縄文以来の「生食」ごちそう説

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2016年06月19日
日本料理とは何か 和食文化の源流と展開 著者:奥村 彪生 出版社:農山漁村文化協会 ジャンル:暮らし・実用

ISBN: 9784540142550
発売⽇: 2016/03/31
サイズ: 22cm/606p

日本料理とは何か―和食文化の源流と展開 [著]奥村彪生

 見るからに大著の風格。だけど、奥村彪生『日本料理とは何か』の本当の価値は大胆な仮説をさりげなく提示しちゃっている点だ。
 和食の源流は縄文文化にあり。ここまではいいとして、著者はなお続けるのである。縄文人は魚や獣肉を生食していただろう。鮮度が落ちれば焼き、さらに鮮度が落ちれば土器で煮て海水で味つけする。生、焼く、煮るという魚の調理法の原点はここにある。貝類はうまみの元だから、彼らはだし汁のうまみを知っていただろう。干貝(ほしがい)か貝を煎じた汁などを、山の幸と交換していたにちがいない。
 え、出典? そんなものないです。縄文時代に文字はないからね。食文化って要は想像力なんです。
 縄文末期か弥生初期に大陸から米が伝わる。米が主食で、海山の幸を従えるという日本型食生活の基礎がここでつくられた。「第一次食文化革命」である。
 粘りけのある温帯ジャポニカという品種との出会いが大きかった。箸で食べられ(インディカ米はスプーンが必要)、整形しやすく冷めてもうまい日本の米は後世、すしや弁当(おにぎり)の文化を生んだ。
 平安時代から鎌倉時代にかけ、禅僧たちによって中国から多様な調理の技術がもたらされた。「第二次日本食文化大革命」だ。以後の日本食のほとんどは中国伝来の食材や技術に由来するが、生食(刺身〈さしみ〉)を最上のごちそうとする縄文以来の伝統は連綿と受け継がれ、やがてオリジナルな「日本料理の型」ができた。
 日本食というと、みんな米にばっかり注目するけど魚の生食(刺身)にも古〜い歴史があったのよ。
 日本料理は日本の文字に似ると著者はいう。中国の漢字が万葉仮名となり、ひらがなやカタカナにアレンジされて、日本語の表記法ができた。和食も同じ。
 膨大な文献と、料理家としての豊富な経験に裏打ちされた、縄文から江戸までの日本料理史。よくある和食本とは一味違います。
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 おくむら・あやお 37年生まれ。伝承料理研究家。著書に『増補版 日本めん食文化の一三〇〇年』など。