何もしないのにサービスと呼べるの? 矛盾をはらむペンネームに戸惑ってしまう。本書は、「なんもしない」けれど、一人で入りにくい店の同行などを無報酬で請け負いますという「サービス」を去年6月にツイッターを通じて始めた著者の活動の記録である。これまで20代30代を中心に約1千件の依頼があり、うまくいっているという。そんなSNS時代の一断面をのぞいてみた。
焼き肉につきあってほしい、コンサートで席を埋めてほしい、勉強をサボらないよう見ていてほしい……。実に様々だ。「引っ越しを見送ってほしい」というのもあった。友達だとしんみりし過ぎるからだという。「依頼者や理由がおもしろくて、『なんもしない』でも、新しい経験があったり、依頼者におもしろがってもらえたり、充足感を得られていることがうれしい」という。
「なんもしない」を前面に出した形だが、思いつくまでには挫折や試行錯誤があった。大学院で地震の研究をし、教材を編集する仕事に就いたものの、組織の人間関係になじめず3年で退社。その後、私塾で学んだり、コピーライターやお笑いに挑戦したりするなかで「仕事するのが向いていない」との結論に達した。
結婚し1歳の息子もいる。生活費はどうしているのか心配になるが「なんもしないで生きていけるのかどうかの“実験”」だと本書に記す。実験の中間報告を聞かせてほしいと尋ねると「あらかじめ設定した目標に合わせてやっているわけじゃなくて、今やりたいことをやって、どういうふうに伸びていくのかを、植物を観察するように見ているところ。まだ評価をする段階じゃない」。日々の暮らしは「貯金があるし妻も理解している」と聞き、やっと何だか落ち着く私。凝り固まった思考回路を揺さぶられた気がした。(文・久田貴志子 写真・横関一浩)=朝日新聞2019年5月18日掲載
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