バレーボール漫画「ハイキュー!!」のアニメ映画がロングランとなっているが、小説だって負けてはいない。21歳の大学生による、高校バレー部が舞台の王道青春小説の登場だ。
主人公はバレー部2年の宮下景(けい)。全国大会を目指す一戦を前に足を痛めてしまい、欠場を余儀なくされる。復調に時間がかかるなか、けがの原因を作った同学年の漫画家志望の女子・真島綾(あや)のことが気になりはじめて……。
「好きなことに打ち込んで得られる幸福を、打ち込むからこそ生まれる呪いのような部分と共に書きたかった」
創作とバレーは自身が打ち込んだことでもある。小説執筆は小学生から。はやみねかおるさんの児童向けミステリーがきっかけだった。本を読みながら想像していた世界が、ある部分でガラッと変わる感覚が心地よく、自分でも書いてみようと思った。
中学に入ってからはバレー部に属しながら、夏休みごとに1作ずつ仕上げた。15歳で書いたミステリー「探偵はぼっちじゃない」が、後にボイルドエッグズ新人賞を受け、高校時代に単行本デビュー。本作は2作目になる。
題名の「八秒」にはバレーへの思いを込めた。主審が笛を鳴らしてから8秒以内にサーブを打たなければ反則となり、相手に1点が入る。この時間による静と動の反復が、バレーを面白くも特殊なスポーツにしているという。
「考えることをやめちゃいけないけど、考えすぎても駄目。それって日々の生活にも、ひいては人生にも繋(つな)がっているのかなと思っていて」
一方、綾の人物造形には、早すぎるデビューゆえの創作の悩みや葛藤を反映した。
「最初は迷ったんですけど、まだまだ小説の技術が足りないのは自覚していて。補うとしたら自分の負の感情を素直に託した方がいいんじゃないかと思った」
現在、慶応大医学部の4年生。森鴎外までさかのぼらずとも、医者との二足のわらじをはく作家は多い。
「両立の先にどんな苦しみがあるのか、先輩方にお会いする機会があったら、ぜひうかがってみたいですね」(文・写真 野波健祐)=朝日新聞2024年4月13日掲載