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映画「町田くんの世界」の石井裕也監督インタビュー 少女漫画に力を借りる

文:永井美帆、写真:時津剛

――監督は「舟を編む」や「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」など小説や詩集を原作にした作品を手がけていますが、漫画は初めてです。最初に原作を読んだ時のことは覚えていますか?

 ぶったまげましたね、最初は。少女漫画を読むこと自体、人生初だったんですけど、人を好きになる気持ちとか愛とか、普通だったら恥ずかしくて口に出せないようなことがきっちり描かれてるんですよ。普通、30歳を過ぎた男が「好きって何だろう」とか考えないですよね。でも、読み進めていくうちに「この問いこそ、実は人間にとって最も根源的で、重要なものなんじゃないか」と気付いたんです。「もう35歳だから」「青春は終わったから」って、いつの日からか自問自答することを放棄していただけで、この問いは今でも目の前にあって、いまだに答えは見つかっていない。まさか自分が漫画原作で撮るとは思っていなかったけど、そういう自問自答を恥ずかしげもなくやっている「少女漫画の力」に乗らない手はないなと思ったんです。表現者として。これまで僕の作品を見たことがない中高生たちにも興味を持ってもらえるかもしれないですしね。

――片岡翔さんと共同で脚本も書いていますが、どんなことを意識して脚本を進めていったんですか?

 原作を読んで一番印象に残ったのは当然町田くんの優しい雰囲気とか世界観なんですけど、それって漫画の中だから成立していたところでもあって。映画にする時、「どうやったら町田くんを現実世界に存在させられるか」という点には慎重にならざるを得なかったです。「こんな奴いないだろ」って、キャラっぽくなってしまうのは何としても避けたかった。これまでの経験から、原作が持っている本質を理解して、そこさえ逃さなければ、多少見え方が変わったとしても原作ファンに受け入れられるっていう感覚がありました。だから、脚本は町田くんを現実世界に存在させるっていう試みでしたね。

©2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

 例えば、町田くんは人類全てを家族のように愛する才能を持った人なんだけど、恋愛については全く分からない。「町田くんが恋をするとどうなるか?」って考えた時、きっと一生懸命好きになるんじゃないかって思ったんです。映画前半では胸の奥に潜んでいた熱い思いが、だんだん表面に露出してくる様子を描くことは、町田くんを「人間化」する上ですごく重要なシーンだと思っています。

――原作の世界観を守りながらも、映画では監督ならではのユニークで新しい表現がたくさんありました。

 原作や少女漫画ファンの人はもちろん、正直、今までこうした映画を馬鹿にしていた人って少なからずいると思うんですが、そういう人も見てくれれば、この映画のすごさ、少女漫画が持つパワーを感じてもらえるはずです。僕自身、今作のプロデューサーから依頼されなければ、出会うことのなかった作品かもしれないです。

――今回、少女漫画を初めて読んだということですが、監督は本がとても好きだと聞きました。

 影響を受けたという意味では、映画より本ですね。最も好きで、尊敬しているのは辺見庸さん。僕のものの見方、考え方の3割くらいは辺見さんからって言えるくらい大きな影響を受けています。映像を学ぶ時、もちろん映画を見るのも良いけど、僕の場合は本、そして音楽から学んだり、インスピレーションを受けたりすることが多かったです。読む本のジャンルは年齢や状況によって変わってきました。チベット仏教とかキリスト教などの宗教学だったり、精神分析学だったり。最近読んだ本だと高橋治さんの『風の盆恋歌』とか玄侑宗久さんの短編集も面白かったです。

 昔からの癖なんですけど、その時の気分で選んだ本をお風呂に持ち込んで、半身浴しながら読みます。それで、感動したところ、共感したところに線を引いて、感想を書き込むんですよ。何か漠然と生きている中で、たまたま読んでいる本の中で答えが見つかった時の感動ってあるじゃないですか。「ここにあった!」みたいな。これこそ、人生の醍醐(だいご)味だと思うんですよ。だから、そこに線を引いて、10年後、20年後の自分に「今ここで感動した」ってメッセージを残すんですよ。やっていない人は絶対にした方が良いですよ。読み終わった本を古本屋に売るとかしないで欲しい。まあ、書き込んであったら売れないですけどね(笑)。

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