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南キャン山里亮太さんの妄想小説「あのコの夢を見たんです。」 旬の美女を勝手に配役

文:永井美帆、写真:有村蓮

――山里さんのテレビやラジオでの発言を聞いていると、とても想像力が豊かだという印象を受けます。「妄想で短編小説を書いてください」と連載のオファーがあった時、どう思いましたか?

 正直、「大丈夫か?」って思いましたね。こうした妄想はこれまで僕の頭の中だけでひっそり行われていたわけなんですけど、脳内だから許されてきたあんな妄想やこんな妄想が「人の目に触れても良いのか?」「読んだ人が気分を害さないだろうか?」と不安になりました。モデルになった女優さんやアイドルの子に「嫌われちゃうんじゃないか」って心配もありました。ところが、小説化にあたって事務所に事前許可をとってみたら、みなさん快く引き受けてくださってね。出来上がった小説を読み、ちゃんと感想まで送ってくれて。中には長文で送ってくれた子もいました。ちょっと気持ち悪い言い方になるかもしれないけど、「好きな子からラブレターの返事がもらえた」みたいな。この喜びがあるから、連載を続けてこられたって言えるかもしれないです。

――今回の短編集にはSFや学園ものなど様々なジャンルの恋愛小説が収められていますね。こういった妄想はどんな時にしているんですか?

 仕事以外の時間は全てです。僕の妄想癖は小学生の頃からで、団地でも有名なうそつきの子だったんですよ。雨の日の下校中に近所のおばちゃんから「車で送ってあげようか?」と声をかけられても、「ガンダムに乗って帰るから大丈夫」って言っていたんで。周りの大人たちも僕のうそに付き合ってくれてね。一度だけ僕のうそが原因で、母親が学校に呼び出されたことがあったんです。でも、うちの母親は「うそっていうのは本当に頭の良い子しかつけないから、亮太はすごいね~」って褒めてくれたんですよ。だからかな、今でも勝手にストーリーを作ったり、うそをついたりすることに罪悪感がない。そういう経験が今も続く妄想癖につながっているのかもしれませんね。

――大人になるにつれて、妄想に何か変化はありましたか?

 成長とともにバリエーションが増えていきましたね。高校生くらいから対象が女性になっていって、気になっている女の子と「こういうデートがしたい」っていうところから、「こんな言葉をかけてもらいたい」とか「あの子の前でこういう自分でいたい」とか。最終的に「あの子のために死にたい!」というところまでいきましたからね。その日の気分によって、犠牲になりたい日もあれば、冷たくあしらわれたい日もあって、妄想がめちゃくちゃ細分化していきました。対象も周りにいる女の子だけじゃなく、女優さんやアイドルの子たちに移っていって。「この子と付き合いたいな~」って思っても、絶対無理じゃないですか。それがかなうのは唯一、脳内だけなので。脳内に劇場があると思って、女優さんとかを勝手にキャスティングしていきました。

――その脳内劇場にキャスティングされたのは、具体的にどんな方ですか?

 今回の本の中にない人だと、やっぱり上戸彩ちゃんですね。彩ちゃんが結婚する前からファンだったので、「スターウォーズか!」っていうくらい何作もありますよ。例えば五重の塔の一番上に捕らえられた彩ちゃんを助けるため、僕がEXILEのメンバーを1人ずつ倒していき、最後にHIROさんを倒し、彩ちゃんの元にたどり着くっていう物語とか。普通に学園ものもありますし。タモリさんが「笑っていいとも!」のゲストに吉永小百合さんが来たら番組を終わるって言っていたみたいに、僕も上戸彩ちゃんの小説でこの連載を終わりにしたいと思っています。

――昨年出版されたエッセー『天才はあきらめた』が13万部を突破するなど、文筆業でも才能を発揮しています。本業であるお笑い芸人の仕事と文章を書く仕事では、向き合い方の違いはありますか?

 お笑い芸人をやってきて、「伝える」ことのかっこよさを日々実感していますが、文章を書くことって、それが一番丁寧に出来る作業だと思うんです。こんな流れで、こういう言葉を積み重ねていけば、読む人の心に気持ち良く届くんじゃないかって、めちゃくちゃ考えながら書いていますよ。一回バーッと書いた後に、「ここは『、』を入れた方が良いな」とか「この言葉はかぶせよう」とか、細かく修正していきます。ある意味、漫才のネタを書く作業と似ているかもしれませんね。小説の中でテンポの良い会話が繰り広げられるところとか、漫才に近いような気がします。

――もともと文章を書くのはお好きでしたか? 執筆はどのようなスタイルで行っているのでしょうか?

 文字や文章は好きですが、書くということは「たまたま続けられている」っていう感じですね。『天才はあきらめた』が予想以上の反響を頂いて、「次は何を書くんですか?」ってよく聞かれるんです。本のハードルが良い感じに上がっていて、正直言って他の作品を読んでガッカリされたらどうしようって。だから、この短編集を出版するのも実はこわかったんですよ。

 小説は40分くらいでスラスラ書ける時もあれば、締め切り日が近づいてもオチが思いつかず、「すみません! 前後編にして、来月までにオチを考えます」っていう時もあって。基本は家でパソコンに向かって書きますが、出先でスマホにバーッと文字を打ち込むこともあります。僕の頭の中にある妄想をそのまま文字にするので、ヒロインの子に「こんなことを言ってもらいたい」っていうせりふを書きながら、自分で励まされちゃったり、涙しちゃったりして。夢とか努力することの大切さとか、説教くさくて直接人には言えないことも、小説の中で女の子に代弁してもらっているところがあります。だから、自分で読み返していても「おっ!」と心に刺さることがよくあるんですよ。

――連載を短編集としてまとめるにあたって、全作を加筆修正したんですよね?

 連載時に1800字とか2000字だったのが4000字くらいになっているので、どれもかなり加筆修正しているんですが、吉岡里帆さんがヒロインの小説は設定以外ほぼ全てを書き直しました。書いた当時と比べて相手に対する気持ちが変化して、「ここは僕の名前を出さない方が良いな」って自分の名前を消してみたり、「この子とはもう少し奥ゆかしい感じで接した方が良いな」ってシチュエーションを変えてみたりとか。16作全てに思い入れがあるんですが、松岡茉優ちゃんの作品なんかは実話に基づいているので、書きながら泣きそうになりました。昔、茉優ちゃんが「おはスタ」のおはガールを卒業する時にメイク道具の鏡をプレゼントしたんですよ。何年か経って、大人になった茉優ちゃんと再会した時に、「まだ使っているんですよ」って鏡を持ってきてくれて。その時のうれしい気持ちから書き始めた小説です。

――小説連載は今後も続けていく予定ですか?

 書かせてもらえるなら続けていきたいですね。テレビやラジオで話すより、僕の頭の中を最も客観的に見せることが出来ると思うから。しゃべった言葉はその場限りで流れていってしまうけど、本は形としてずっと残るじゃないですか。正直、この短編集を出すのに不安もあったけど、色んな人に読んでもらいたいですね。一つひとつの話が短いので、これまで小説を読んでこなかった人にも入門編として手にとってみて欲しいし、あと、妄想っていうのもやってみると意外と楽しいものなんで。「あ、こうやって妄想すると楽しいんだ」っていう妄想のレシピとしても最適だと思います。新しい趣味を始めたい人にもぜひ。自信を持っておすすめします!