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レイザーラモンRGが語る スニーカーの「キモ撮り」が健全な社会を作り、経済を活性化させる

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

レンガの前で撮るのはニューヨークっぽくてヒップホップ

ーーRGさんがInstagramを始めたきっかけを教えてください。

 始めたのは2015年くらいですね。もともとはWEAR(ファッションコーディネートサイト)をやりかったんです。当時はまだ芸人界に「おしゃれアピールしてどうすんねん」みたいな空気があって。でも僕は昔から洋服好きだったから、その流れを変えたかったんですよ。でもWEARが僕が使ってたAndroidに対応してなくて。「えぇ……」ってなってた僕に、当時のマネージャーがインスタを教えてくれたんです。

ーーキモ撮りはどのようにして誕生したんですか?

 やろうと思ってこのスタイルにした、というよりこうなっちゃったという感じ。キモ撮りの一番大きなポイントはスマホを逆さにして撮影すること。それだけですごく迫力ある写真が撮れるんです。でもこれは僕が発明したわけじゃなく、当時使ってたスマホのカメラが下に設置されてたから、普通に撮るだけでキモ撮り画角になってたんですよ(笑)。

ーー背景に統一感があるというのもポイントですよね。

 表紙の写真もそうなんですが、特に初期はほとんど自宅マンションの駐輪場の横で撮ってました。というのも、始めた当初はこんなふうに仕事につながるとは思ってなかったので、あくまで生活の中で細々とやってたんですよ。でも僕は何に対しても結構真面目なタイプでして。せっかく自撮りするなら綺麗に撮りたいし、そうなると室内より屋外の自然光、しかも断然朝の光が良い。でも街中で堂々と自撮りする勇気はない。そしたらここしかなかったんですよね。僕の自宅は一階なので、通勤通学の人たちの気配を感じたらすぐに逃げ帰れるという意味でもちょうどよかった(笑)。

ーー最初は単なる趣味の一環だった、と。

 うん、やれる範囲でやるしかなかったんです。でもここで撮り続ける勇気をくれたのは後輩芸人のシオマリアッチ。「レンガの前で撮るのはニューヨークのヒップホップっぽくてカッコいい」と言ってくれたんですよ。そいつはものすごくヒップホップが好きで、YOU THE ROCK★さんのバイブスを芸人として体現するために活動しているようなやつで。それで「ここで撮り続けるのも良いかも」って思うようになりました。

自分の生活の範囲内で、誰でもやれる特別なこと

ーーキモ撮りのキーワードが「真面目」というのは意外です。

 かなり真面目にコツコツやってたと思います。毎日何かしらアップするようにしてて、その試行錯誤からキモ撮りが今の形になっていたんですよ。まず靴をカッコよく撮りたい。それでいて全身何を着てるかわかるようにしたい。でもインスタでカッコつけることに対しては、正直照れもあって。中途半端にカッコつけると自分を盛ってるように見えちゃうから、逆に過剰にカッコつけることにしました。これは単なる自分への言い訳なんですけどね(笑)。

ーーそんなRGさんを見た奥様が、「キモッ!」言い放たれたのがキモ撮りという言葉が生まれたキッカケなんですよね?

 そうです。でも僕、このエピソードが結構気に入ってて。自分で言い始めたのではないところが良いなって。僕はいま練馬に住んでるんですが、その一角でいつの間にかキモ撮りが始まってたんですよ(笑)。

ーーある日、ニューヨークのブロンクスの街角でヒップホップが始まった、みたいな感じですね(笑)。

 そうそう、伝説っぽくしたい(笑)。でも真面目な話、僕が原宿のショップの前とかでカッコつけて自撮りしてたわけじゃないっていうのも、キモ撮りが広まった要因のような気もしてるんですよね。選ばれた人だけのものじゃなくて、誰でも自分の生活の範囲内でやれる特別なことというか。

「レア云々より靴自体が好きだった」と思い出した

ーーしかし凄まじい数のスニーカーと洋服を持っているんですね。

 こうして改めて見て返すと、自分は一体何百万円使ったんだと愕然としちゃいますね。僕、基本的に買った服は捨てないんですよ。靴も箱までとっておくタイプ。全部部屋で保管しているので、一回妻と大げんかしました(笑)。けど最近はスニーカーのキャラが定着してきたので、ちょっと許してくれてます。

ーーこの本にはそこまで有名じゃないブランドやモデルのスニーカーもたくさん登場しますね。

 「アメトーーク!」の「スニーカー芸人」ではレアものが中心に紹介されてましたもんね。もちろん僕もレアスニーカーをゲットするために必死だった時期もありました。でもある日、「僕はレア云々より靴自体が好きだった」ということを思い出したんですよ。子供の頃、うちは貧乏だったし、住んでるところも地方だったから、レアスニーカーなんてまったく買えなくて。あと(ナイキの)ジョーダンとかはイケてる軍団しか履けない、みたいな暗黙の了解もあったし(笑)。そもそも僕が通ってた高校は校則が厳しくて白いスニーカーしか履けなかったんですよ。あとハイカットもNG。でも僕は当時流行り始めたハイテクスニーカーがどうしても履きたくて試行錯誤した結果、テニスシューズに行き着いたんですよ。

ーーなるほど。当時のテニスシューズは白ベースのモデルが多いですよね。ウィンブルドンなんて、いまだにシューズはもちろん、ウェアまで白しか着用が許されてないですし。

 そうそう。特に僕が10代だった頃はテニス界も今以上に厳しくて。そんな中でナイキがソールに蛍光黄色を入れたAIR TECH CHALLENGE IIを出したんです。しかもそれをアンドレ・アガシが履いて。当時は結構な衝撃だったんですよ。「テニスのルールを破ってる!」みたいな。すごいカッコよかった。でもそれは友達が履いてたので、僕はビョルン・ボルグか、ボリス・ベッカーのやつを選びました。そこは忘れちゃったんだけど、鮮烈に覚えてるのは91年にアディダスからEQTというシリーズが出た時。ハイテクで、白ベースで、田舎でも売ってて、貧乏な僕でも買えた(笑)。このエピソードが本当に象徴的なんですが、結局僕の人生にはいつもいろいろと制約が付いて回るんですよ。そういう状況で好きなものを追求しようとすると、自然と真面目にならざるを得ない。

ーーちなみにスニーカーは全部自分で購入してるんですか? 有名人だと「履いてください」みたいなお話があると思うのですが。

 ありがたいことに、たまにそういうお話をいただけるんです。でも、海外のセレブとかモデルとかはいただいても履かなかったり、お断りしたりしてると思います。

ーー箱をパカっと開けた動画に「Thanx ○○(メーカー名か提供者)」というテキストを添えたストーリーを上げてお茶を濁すみたいな(笑)。

 僕はあれがすごく嫌で。どのスニーカーにもそれぞれ命があると思ってるから、いつも「この靴に合うスタイリングは何か?」ということをめちゃくちゃ真剣に考えるんですよ。最近だとPUMAの「SUEDE CLASSIC X POGGY "POGGY" "SUEDE 50th ANNIVERSARY”」をいただいたんですよ。PUMAのSUEDEというモデルに、日本の地下足袋をミックスしたスニーカーで。この靴に合うスタイリングを考えるのは本当に難しかった。そしたらたまたま着物を着る機会があったので、合わせてみたらすごくいい感じになりましたね(写真はこちら)。

キモ撮りはみんなの幸せを追求した結果生まれたポーズ

ーー巻頭グラビアで着ているディアドラのド派手なトラックスーツもカッコいいですね。

 すごい色合いでしょ? 僕、お店で難しい服を見かけると、ついチャレンジしたくなっちゃうんですよね。

ーーいまヒップホップシーンではイギリスのラッパーが再評価されていて、もともと貧乏な団地出身の彼らが好んで着てるのがトラックスーツなんですよ。だからこのグラビアはすごくフレッシュだと思いましたね。

 そうなんだ! 全然知らなかった(笑)。僕なんてミーハーだけど、ヒップホップは大好きだからそうやって自然とつながってたのは嬉しいな。僕はこれをシャカシャカ素材と呼んでて。いろいろ着てたら、これに行き着いたんですよ。シャカシャカはフレッシュなんです。洗濯しても生地がケパケパしないし、縮まないし。いつも新品みたいなんですよ。妻が厳しいから高い服なんて買えないし、そもそもハイブランドに興味もなくて。だからここ何年かはずっとシャカシャカを着てますね。

ーーその理論は超Flexですね。

 Flex! 今回の本に載ってるオカモトレイジくんとの対談で初めて聞いた言葉だけど、あれはいいですよね。「キメてる」「イケてる」「センセーショナル」と言わずに、あえて謎の形容詞「Flex」を使うという。それがハマることしたいという、レイジくんの考え方もめっちゃ共感できたし。そういう意味ではぁぃぁぃもFlexなんですよ。だって彼女はもともとすごく大人気アイドル(私立恵比寿中学)だったのに、事務所(スターダストプロモーション)も辞めて、いまは自分のやりたいことをやってる。本当にカッコいいと思う。

ーーインスタだけ観てるとレイジさんもぁぃぁぃさんも何やってる人かわらないですよね。

 それは一番Flexだと思う。レイジくんが対談後の雑談で「サブカルと思われたくない」って言ったことに感動したんですよ。それは僕自身が常に思ってることだったから。「こんな本を出しておいて何言ってんだ」とツッコまれるかもしれないけど。

ーーこの本からはサブカルよりも、むしろ純粋さを感じましたけどね。そもそも「サブカルと思われたい」という考え方自体が邪で、真面目じゃない。

 マジですか、それは嬉しいなあ。そもそもキモ撮りっていうのは、スニーカーの全体像がわかること、しかもそのスニーカーに何を合わせているのかもわかる、同時に中年なら気になる首やお腹のたるみも隠せる、小顔効果もある、短足を隠せるなどなど、みんなの幸せを追求した結果生まれたポーズなんですよ。キモ撮りすれば、自分に自信がつくし、そしたらもっとスニーカーや洋服を買いたいとも思える。キモ撮りが健全な社会を作り、経済を活性化させる。つまり僕はパナソニックの創業者である松下幸之助さんと同じなんです。

ーー超Flexな発言ですね、何言ってるか全然意味がわかりません!

 つまりキモ撮りすればみんなもFlexになれるということです。だから『KIMODORI』を買ってくださいね。