現代チェコ文学を代表する一人、ビアンカ・ベロヴァーさんが『湖』(河出書房新社)の刊行を機に来日した。訳者の阿部賢一さんを聞き手にしたトークイベントが先月下旬、都内の書店で開かれた。
『湖』は、祖父母に育てられた少年ナミの視点で湖のほとりの暮らしを描く。祖父は漁に出たまま湖から戻らず、足を骨折した祖母は小舟に乗せられ湖に送られた。ナミは故郷を離れて母を探しにゆく。精霊やシャーマンを信じる村にはロシア軍が駐留し、国家主席の像がある。不穏と暴力を幻想で包んだ長編小説。
ベロヴァーさんは1970年プラハ生まれ。『湖』で2017年にチェコ最大の文学賞「マグネジア・リテラ賞」を受賞、17カ国で翻訳されている。阿部さんが「訳した感覚では映画『マッドマックス』。暴力の描写がうまく、深みがある」と言い、現在形の短文を重ねた緊張感のある文体について問うと、ベロヴァーさんは「主人公の体験をドローンのような視点で読者に味わってほしいと思っていた」。時代や場所は書かれていない。「東欧ではロシア軍や集団農場に反応があったり、イタリアでは感情的に胸を打たれるといわれたり。国によって読者の関心が違うのが面白い」
イベントには東京在住のチェコの若手作家アンナ・ツィマさんも参加した。91年生まれ、渋谷を舞台にした小説でマグネジア・リテラ賞新人賞の候補になった新鋭だ。ベロヴァーさんは「ここ3年ほどチェコでは女性作家の活躍が目立っている」と話した。(中村真理子)=朝日新聞2019年5月29日掲載
編集部一押し!
- 谷原書店 【谷原店長のオススメ】梶よう子「広重ぶるう」 職人として絵に向かうひたむきさを思う 谷原章介
-
- コラム 読んでぐっすり 眠りにつく前に読みたい絵本・童話集4選 好書好日編集部
-
- 杉江松恋「日出る処のニューヒット」 君嶋彼方「春のほとりで」 10代の日々を活写、青春小説作家の代表作が生まれた(第17回) 杉江松恋
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 自力優勝が消えても、私は星を追い続ける。アウレーリウス「自省録」のように 中江有里の「開け!野球の扉」 #17 中江有里
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 文學界新人賞・福海隆さん バンドの宣伝で初めて小説を書いたら……受賞。「LGBTQ+を陳腐化したい」 連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#16 清繭子
- BLことはじめ 「三ツ矢先生の計画的な餌付け。」 原作とドラマを萌え語り! 美味しい料理が心をつなぐ年の差BL 井上將利
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社
- インタビュー 物語の主人公になりにくい仕事こそ描きたい 寺地はるなさん「こまどりたちが歌うなら」インタビュー PR by 集英社
- インタビュー 井上荒野さん「照子と瑠衣」インタビュー 世代を超えた痛快シスターフッドは、読む「生きる希望」 PR by 祥伝社