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「三つ編み」書評 女ゆえの困難越える3人の一歩

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月01日
三つ編み 著者:レティシア・コロンバニ 出版社:早川書房 ジャンル:小説

ISBN: 9784152098559
発売⽇: 2019/04/18
サイズ: 19cm/255p

三つ編み [著]レティシア・コロンバニ

 自慢の髪を切ってお金に換える『若草物語』のジョー。美しい黒髪に憧れて、あやしげな毛染め薬に手を出す『赤毛のアン』。髪をめぐる物語はいつもちょっぴりドラマチックである。では『三つ編み』は?
 3人の女性が登場する。
 スミタはインドの村の、カースト外の「不可触民」として生まれた。仕事は排泄物の回収。6歳になる娘のラリータを学校に入れるのが彼女の希望だ。
 ジュリアはイタリアのシチリアで、事故にあった父に代わり、曽祖父の代から続く毛髪加工業を受け継いだ。国内から集めた毛髪をかつらにし、ヨーロッパ中に発送する仕事である。
 サラは40歳。カナダ、モントリオールの敏腕弁護士で、3人の子を持つシングルマザーでもある。
 3人はそれぞれの苦難に直面する。スミタは学校で娘が教師に侮蔑されたのを機に、夫をおいて娘と2人村を出た。ジュリアは異邦人の恋人を得るも国内の毛髪不足で廃業の危機に立たされ、サラは乳がんで出世の道を絶たれた。
 物語は年齢も国籍も異なる3人の人生を、あたかも三つ編みのように編みながら進行する……だけじゃなく、これ、本当にも髪が国境を超える物語なのだ。
 アジアの最貧困層に属すスミタと、シチリアの保守的な土地柄で奮闘するジュリアと、北米の都市で颯爽と風を切って歩くサラとではあまりに環境が異なる。だが彼女たちは同じ種類の困難を抱えている。女であるがゆえの困難だ。
 〈トイレの汲みとりに生まれつき、汲みとりとして死ぬ。それは代々受け継がれるもの、抜けだせない円環〉とはスミタの環境を示した一文である。しかし彼女は円環を断ち切り、大きな冒険への一歩を踏み出した。他の2人も同じ。
 フランスで100万部突破、32言語の翻訳が決まったという快作。髪は女の命なんて紋切り型を超えた世界中の人々を励ます物語である。ブラボー♡
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Laetitia Colombani 1976年生まれ。フランスの映画監督、脚本家、女優。本書が初めての小説。