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「建築史への挑戦」書評 「水の都」東京のあり方を探求

評者: 長谷川逸子 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月08日
建築史への挑戦 住居から都市、そしてテリトーリオへ 著者:陣内 秀信 出版社:鹿島出版会 ジャンル:技術・工学・農学

ISBN: 9784306073517
発売⽇: 2019/04/05
サイズ: 21cm/437p

建築史への挑戦 住居から都市、そしてテリトーリオへ [編著]陣内秀信、高村雅彦

 陣内秀信さんの法政大学退任イベントとして開かれた講義をまとめた本だ。陣内さんはヴェネチアに留学し、建築史や都市史の研究とともに、都市を読む文法を学んだ。さらに、建築から都市の力を引き出すという考えに立つ。
 陣内さんが講義で触れているように、85年に出された『東京の空間人類学』では、水の都のヒストリーとして江戸全体の構造を探求し、この都市のグランドデザインは地形・自然条件に依拠していることを示す。そして流通産業から宗教や行楽までが水辺に分布し、人を集めていたことを調査。レヴィ=ストロース氏に請われ、隅田川に案内した写真を拝見した。空間人類学というテーマとヨーロッパの構造主義とを関係づけようとしたのか。陣内さんはイタリアの都市を分析する方法をベースに「日本の固有の条件、文化風土」から都市を読み込んでいる。
 本書は、最終講義のほか、藤森照信、伊藤毅、福井憲彦、田中優子、中谷礼仁、北山恒各氏たちと対談した講義を収めた。
 例えば、同じ法政大学の教授である北山恒さんは、ヴェネチア・ビエンナーレの日本館で「生成変化をし続ける東京――Tokyo metabolizing」を展示。本書の共編著者である高村雅彦さんによると、北山さんは、陣内さんの『東京の空間人類学』から独特な都市のコンテクストを読む方法を身に付け、東京の特性としての木造密集住宅地を対象に調査・研究し、「内部で自律的に生成、変化する未来都市のモデルの提示に力を注いで」きた。
 私は、グローバル化する世界の首都の中で、東京の独自な展開の研究に注目してきた。北山さんは、普通の東京の「住宅が集合して面的に広がる都市居住の形式のあり方」を読み、街区、敷地、環境を手がかりに、独自に東京のコモンズ(共同体)の有り様を重要なキーにして主張している。この研究は私にとって新鮮なものだった。
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 じんない・ひでのぶ 1947年生まれ。法政大特任教授▽たかむら・まさひこ 1964年生まれ。法政大教授。