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小学4、5年生くらいの感性と最大限のエネルギーを込めて いしかわこうじさんの絵本「おめんです」

文:加治佐志津、写真:鈴木静華

―― きつねのおめんに、鬼のおめん。かぶっているのはだあれ? おめんをめくってみると……。迫力のあるおめんと、おめんの下から現れる笑顔のギャップが楽しいしかけ絵本『おめんです』(偕成社)。作者は、累計230万部を超える人気作「これなあに?かたぬきえほん」シリーズや、様々な乗り物が登場する「のりものしかけえほん」シリーズなど、美しいグラフィックと想像力を刺激するしかけで人気の絵本作家、いしかわこうじさんだ。

 おめんについては、以前から興味があったんです。最近は、縁日で売っているおめんのほとんどがプラスチック製ですが、昔は職人さんが一点一点、手作りしていたんですよね。おめんの絵本を作るにあたって、浅草や京都のおめん屋さんでいくつか実物のおめんを買い集めたんですが、筆の勢いや手描きの風合い、光沢感、立体感など、とてもユニークで、造形的に面白いなと。

 かぶる前と後のギャップも、おめんの面白さのひとつですよね。変身願望って誰にでもあると思うんですが、おめんはぱっと顔にかぶるだけでその願望を叶えてくれます。変身の度合いが大きければ大きいほど、見る人は面白さを感じますよね。だから『おめんです』では、おめんの造形の面白さと、外したときの意外性が楽しめるように、さまざまな工夫を凝らしました。

浅草や京都で買い集めたおめんコレクション

 僕の絵本はどちらかというと、ものを非常に単純化して表現することが多いんですね。『どうぶついろいろかくれんぼ』にしても『たまごのえほん』にしても、いろんなものを削ぎ落して、極力シンプルな形で描いています。でも『おめんです』については、タッチをがらりと変えました。光沢や陰影、塗りむらなどを生かして、本当にそこにあるようなリアリティを追求したんです。

 “赤ちゃんから楽しめるしかけ絵本”というキャッチコピーで売っているわりには、最初に登場する鬼なんて、かなり怖いんですよ。でもおめんをめくると、うしさんのにっこり笑顔が現れて、「あぁ、うしさんがかぶってたんだぁ」と安心できる。『おめんです』では、そんな「ちょっと怖いな」「不思議だな」という不安と、おめんの下からなじみの動物が現れたときの安心感が、交互に繰り返されます。

 おめんの下の動物たちについても、迫力あるおめんに対抗できる強さが必要だと思ったので、油絵のニュアンスも取り入れながらかなり描き込みました。かわいいながらも絵画的な味わいを感じさせるような絵になったと思っています。

『おめんです』(偕成社)より。おめん部分は、1、2歳の子どもの顔にちょうどはまるサイズになっている

―― おめんの下から笑顔が登場する様は、さながら「いないいないばあ」。読み聞かせ会などでは、あてっこ遊びで盛り上がる。懐かしさも手伝ってか、祖父母世代からの人気も高い。鬼のおめんにはうしさん、おたふくのおめんにはぶたさんなど、組み合わせの妙もこの絵本の醍醐味だ。

 どのおめんから何が現れるかは、共通点を意識して組み合わせていきました。鬼は角があるから、角がかっこいいうしさんにしようとか、おたふくは色白でぽっちゃりしているから、ふっくらかわいいぶたさんとか。小さい子どもには正直あまりわからないと思うんですけど、大人は気づきますよね。「あぁ、そういう組み合わせになっているんだ」と。そうすると、大人は大人で違うレベルで楽しめると思うんです。

 絵本の読み聞かせって、親が楽しんでいると子どもも楽しいし、子どもが楽しんでいると親も楽しいという、鏡みたいなところがあるんですね。逆に、親が義務感に駆られていやいや読んでいたら、子どもはちっとも楽しくないし、本を嫌いになってしまうかもしれません。だから絵本を作るときは、子どもだけでなく大人も楽しめるものにしたいと、いつも考えています。

作画はたいていパソコンで行う。「デジタルと言っても、一筆一筆描いていく感じはアナログと変わりません。画材のひとつとして活用している感じですね」

―― 「絵本を作る上で一番大事なのはアイデア」と語るいしかわさん。唯一無二のアイデアが浮かぶと、そのアイデアを十二分に生かすべく、満足いくクオリティまで作り込んでいく。ブックデザインまですべて自分で手がけるのがいしかわさん流だ。

 僕の場合、締め切りはたいてい自分で設定しているんですが、納得いくものができあがっていなければ、1カ月2カ月とずれこむこともあります。たっぷり時間をかけて、限界までクオリティを高められるというのは、絵本作家になってよかったことのひとつです。

 僕は本を読み物としてというより、物体として好きなんです。だから一冊一冊、持ったときの佇まいにまでこだわってデザインしています。持っているだけでうれしくなるような、愛着が湧く絵本になるように、自分の持つ技をすべて使って作り込んでいく感じですね。

 しかけ絵本では印刷所や製本所の方々にも、技術面でいろいろとチャレンジしていただいています。『おめんです』の場合、おめんの形に合わせてページごとのカットの仕方が変わるんですが、実はカット自体はそこまで大変ではなくて、むしろ製本したときに生じるずれを解消するのに手間がかかったそうです。

 おめんの穴に目がぴったりと合うように作っているんですが、製本して閉じたら、少しずつずれてしまったんですね。でも少しでもずれると、目線がそれてしまって、読者と正面から向き合っている感じになりません。僕が作った版下のデータではそのずれまでは考慮していなかったので、印刷所の方が束見本(※)をもとにサイズを測って、少しずつずれを修正してくださったそうです。妥協のない絵本作りができるのは、編集者や印刷所、製本所の方々が真剣に取り組んでくださるおかげです。

※束見本(つかみほん)……実際の書籍と同じ紙、同じページ数で製本したサンプルのこと。厚みやサイズ、重さ、手触りなどを把握することを目的に作られるため、表紙も中身も無地のことが多い。

―― 幼少期から、お絵描きや工作が大好きだった。中でも夢中になったのが折り紙だ。代表作『どうぶついろいろかくれんぼ』をはじめとする「これなあに?かたぬきえほん」シリーズは、本のサイズがちょうど折り紙と同じくらい。彩り豊かな表紙も、折り紙を連想させる。

 新しい折り紙を買ってもらうと、まずはばーっと全部並べるんですよ。それで、どれから使おうって考える。金や銀があるのもうれしかったですね。僕の色彩感覚のベースは、折り紙で養われたんだと思います。折り紙を折るときは、本を参考にしていました。笠原邦彦さんという折り紙作家の方の本がすごく好きで、尊敬していましたね。シンプルながら美しい形を作り出すところが、品があっていいなと。将来は折り紙博士になりたい、と思っていたときもありました。

 大阪万博が開催されたときには、パンフレットを買ってもらって、パビリオンの写真を毎日のように眺めていました。7歳の頃のことです。一番好きだったのは、サッカーボールを半分に切ったような形の「みどり館」というパビリオン。造形的にもダイナミックで、グラデーションも美しくて、子ども心に刺激を受けましたね。

8歳のときに折り紙を使って作った貼り絵。『むしいろいろかくれんぼ』を作るときは、8歳の自分を越えようという思いで臨んだ

 僕の場合、子どもの頃に夢中になっていたことが、そのまま今の仕事につながっているんですよ。美大で絵やデザインの勉強をして、いろんな知識を得て、イラストレーターとしても経験を積んできたけれど、絵本の仕事をするようになったら、子どもの頃の感覚が戻ってきたんです。今の僕は、小学4、5年生くらいの感性で仕事をしている気がします。娘が今6年生なので、娘の方がやや年上になってしまいました(笑)。もちろん、ビジネス感覚みたいなものも持ち合わせてはいますし、知識や経験から得たことも仕事につながってはいるんですが、どちらかというと子どものときみたいに「こんなの作っちゃったよ」という感じがなるべくストレートに出た方が、いい作品ができるのかなと思っています。

―― 最新作『パンダくんのおつかい』(ポプラ社)は、ストーリーを楽しみながら探し絵遊びができる絵本だ。

 探し絵の絵本なので、とにかく細かく描き込んでいきました。かなり時間がかかりましたね。答えは載せていないので、いくら探しても見つからない!という方もいるかもしれませんが、あまり簡単すぎるよりも、そのぐらいの方が何度も楽しめるんじゃないかなと。巻末には、パンダくんが買ってきた材料を使って作る「パンダくんカレー」のレシピが載っているので、よかったら作ってみてくださいね。

『パンダくんのおつかい』(ポプラ社)より。この場面には、ヨーグルト3個とたまねぎ3個が隠れている

 絵本は文章だけじゃなくて、アイデアを絵や色、形で表現することができるので、年齢も国籍も関係なく楽しめるのが魅力。今はどちらかというと、データ化されてモノがどんどんなくなっていく時代だけれど、絵本はそういう中でも今の形で残っていくだけの、メディアとしての強さがあると思っています。だからこそ、これからも自分の最大限のエネルギーを使って、誰もまだ見たことがないような新しい絵本を作っていきたいなと。そして、僕の絵本を読んだ子どもたちのその後の人生に、少しでもいい影響を与えることができれば、それほどうれしいことはないですね。