松田奈那子さんの絵本「ふーってして」 赤ちゃんも心躍る、アートな遊びの楽しさを絵本に
―― ページの中央にぽとりと落とされた、黄色い色水。「ねえ ふーってして」という呼びかけに応えてふーっと息を吹きかけ、ページをめくると……色水が放射状に広がって、太陽になった! 松田奈那子さんの絵本『ふーってして』(KADOKAWA)は、色水がユニークに変化する様を楽しめる読者参加型の絵本だ。「はじめてのアート絵本」シリーズの1作目として、2020年に出版された。
色水遊びの絵本を作りたいという思いは、私の中にずっとあったんですが、絵本でどう表現するかがなかなかまとならなくて、諦めていたんです。でも、子ども向けの造形教室やワークショップを開催すると、「絵の具を家で使うのはハードルが高いから、こういう場があると助かります」とおっしゃる親御さんがとても多くて。それなら、絵の具で遊ぶ楽しさを疑似体験できるような参加型の絵本を作ろうと思いました。
赤と青を混ぜると紫になる、というようなシンプルな色水遊びや、ビー玉に色水をつけて紙の上を転がす遊びなど、候補はいろいろとあったのですが、中でも表現として面白いのではと思ったのが“吹き流し”でした。吹き流しは、紙の上に垂らした色水をストローなどで吹いて模様を描く技法です。髪の毛がびゅーっと爆発したり、ひげやまつ毛がにゅーっと伸びたりする絵を編集者さんに見せたらすごく面白がってくれて、これで進めようということになりました。
方向性が決まってからは、髪の毛やひげ以外にもこんなものができるな、あんなのもできるな、という感じでアイデアがどんどんふくらんでいきました。大学院生のときにアルバイトしていた造形教室でも未就学児向けにさまざまな色水遊びを取り入れていたので、その頃のことも思い出しながら、思いっきり楽しんで作りました。
―― 最初の見開きで「ぽと ぽと ぽとり」と色水を垂らし、「ふーってして」と呼びかけて、次の見開きで草が生えたり、ひげが伸びたりと絵が変化する展開。2場面1単位を繰り返す、赤ちゃん絵本の王道といわれる構成だ。
『ふーってして』の前にも、造形遊びの絵本をシリーズで作ったことがあったんですね。野菜スタンプが楽しめる『やさいぺたぺたかくれんぼ』と、ちぎり絵の『いろがみびりびりぴったんこ』、こすり出しという技法を使った『でこぼこぬりぬりなにがでる?』(いずれもアリス館)という3冊で、3歳ぐらいから遊べる内容になっています。
『ふーってして』は、さらに小さい子から楽しめる絵本になるよう意識して作りました。ふーってしたら変わる、という繰り返しは1、2歳の子にもわかりやすいし、次はどうなるんだろう?とワクワクしながら読み進められますよね。まだ絵の具というものに触れたことのない子も、絵本の中の色水に向かって実際にふーっと息を吹きかけながら、めくったあとの変化や色彩の面白さを楽しんでほしいなと思っています。
――「はじめてのアート絵本」シリーズ2作目の『ぱったんして』(KADOKAWA)では、絵の具を紙で挟み込んで転写させる「デカルコマニー」という絵画技法を取り入れた。『ふーってして』も『ぱったんして』も巻末には解説ページを入れ、実際に絵の具遊びを楽しめるよう工夫している。
どちらも筆を使わずにできる絵の具遊びなので、小さい子でも挑戦しやすいかなと思います。赤ちゃんのうちはストローに息を吹き込むのが難しいので、『ふーってして』は、ケーキのろうそくを吹き消したり、シャボン玉をふくらませたりといったことができるようになってから挑戦してみてほしいですね。
※KADOKAWAの児童書ポータルサイト「ヨメルバ」では『ふーってして』オリジナル「ふーってしてみようワークシート」がダウンロードできます
『ぱったんして』は紙を半分に折るだけなので、もっと小さい子からできるはずです。うちの息子は1歳から「ぱったん」を楽しむようになって、部屋中がちょうちょだらけになるほど、ちょうちょの絵をたくさん作りました。紙の代わりにクリアファイルの一辺を切って使うと、ぱったんと挟み込んだときに絵の具が伸びて混ざっていく様子を見ることができるし、手で押したときのムニュッとした感触も楽しめて面白いですよ。乾いたら切ってモビールにして飾るのもおすすめです。
―― 造形遊びへの思いは、幼少期まで遡る。5歳から中学2年生まで通っていた造形教室は、松田さんの現在の活動の原点だ。
私は小さい頃から、絵を描いたり工作したりするのが大好きだったんですね。ただ幼い妹たちがいたので、ビーズなどの細かい工作を家でするのは難しくて。もっとのびのびと絵や工作を楽しめるようにと、母が近所の造形教室を見つけてきてくれて、通い始めました。
その造形教室は、みんなで同じものを描きましょうとか、今日中に終わらせないといけないとか、そういった縛りがなくて、好きな絵を描いていいし、工作でもいろんなものを作ることができたんです。時間配分についても、自分が納得いくまでめいっぱい描き続けてもいいし、絵は切り上げて工作を始めてもいい、という感じで、かなり自由度がありました。
抽象画を描かれる先生だったので、見たままを描きなさい、みたいな指導もなくて。それも私にはよかったんだろうなと感じています。毎回びっくりするぐらい褒めてもらって、自己肯定感がすごく上がる教室でした。
―― 学生時代の造形教室でのアルバイトを経て、画家、絵本作家としての創作の傍ら、子ども向けの造形教室やワークショップも開催。造形遊びの楽しさを伝える活動は、今後もライフワークとして続けていく予定だと話す。
子ども時代にうまく描けなかったという経験をすると、それを機に自分は絵が苦手なんだと思い込んでしまう方が結構いらっしゃるんですよね。苦手と感じるきっかけとして一番多いのが絵の具で、全体的に茶色くなってしまった、みたいな水彩絵の具トラウマの話はよく聞きます。でも、そのせいで絵を描かなくなったり、アート作品自体にも関心を持てなくなってしまったりするのは、すごくもったいないなと思っていて。
だから私の造形教室やワークショップでは、とにかく楽しんでもらうということを第一に考えています。上手にできなくても全然いいと思うし、色の混ざりがきれいだなとか、にじみ具合が面白いなとか、そんな小さな楽しみも大切にしてほしいなと。うまくいかない、できない……とネガティブな気持ちになってしまうこともあるかもしれませんが、そこをうまく立て直して、達成感につながるようにサポートしていきたいし、納得いく形で終わらせてほしいなという気持ちがいつもあります。
日常にアートを取り入れてほしいというのも、私が絵本や絵画作品を手がける中で常に考えていることです。息子が生まれてから造形教室はお休みしているんですが、息子との暮らしの中で、1、2歳のうちからできる造形遊びのバリエーションも増えてきたので、うまくシェアしていけたらいいなと思っていて。まだ言葉で表現できない赤ちゃんでも、手についた絵の具をちょっと気持ち悪いと感じたり、手が青くなってしまってびっくりしたり、紙の上の色水の変化に目を見張ったりと、いろいろな気持ちの動きがあるはずです。そのきっかけとなるような何かを作っていけたらいいですね。
ただ、家で大きな紙を広げたり絵の具を準備したりするのは大変だと思うので、そういった体験ができる場を作っていきたいというのもありますし、造形遊びの楽しさを伝えるような絵本もまた作れたらいいなと思っています。