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「コミックソングがJ-POPを作った」書評 歌と「笑い」つなぐ新世代の解釈

評者: いとうせいこう / 朝⽇新聞掲載:2019年06月15日
コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史 (ele-king books) 著者: 出版社: ジャンル:マンガ評論・読み物

ISBN: 9784909483263
発売⽇:
サイズ: 19cm/255P

コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史 [著]矢野利裕

 本書にもあるように「コミックソング」という分類は、例えばアメリカにはない。いわゆる企画モノという意味で「ノヴェルティ(新奇な)ソング」と呼ばれるのみであり、そこでは意外なタレントが流行(はや)りのリズムなどを披露する。
 ところが、我が国の「ノヴェルティソング」となると、必ず「笑い」の要素が基底に来る。本書はその長い歴史を、「オッペケペー節」などの初期から、クレージーキャッツ、タモリやピコ太郎に至るまで(中には私の名も出てくる)並べて論じていく。
 新しい音楽の形式が海外で生まれると、必ずそれをすかさず取り入れたくなる者がいる。だが、ストレートに再現しても国内では通じない。すると例えば「お祭りマンボ」「買物ブギー」などと和洋折衷になり、どうしてもコミックソングにならざるを得ない。
 これまでも同主題は故平岡正明など先鋭的な批評家や、その下の世代の佐藤利明、保利透などコレクターでもある者らによって語られてきたが、ついに新世代があらわれたのである。
 著者は「軽薄」という概念で全体を刺し通す。音楽それ自体が持つ軽さ、悦びはもともと「新奇」であり、だからこそ人々を踊らせ、歌わせてしまう。
 さすがDJとして音楽を選び人々に聴かせもする著者ならではの解釈で、これまでになかった「コミックソング」原論となっている。
 ただし、実際にラップという「新奇」な音楽に日本語を乗せようとした私(自分が「コミックソングからしか始められない構造」の最後の世代だと強く認識していた)からすると、少しだけ物足りない。
 新ジャンルは常に「そこに乗せるべき主題と形式の傾向」を持つ。だが、文化の違いが大きいほど、輸入する側には使う言葉の用意がない。だから歌詞を既知のもののパロディにする以外なくなる。これが私の言語上の実感であり、著者の答えを是非読んでみたい。
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 やの・としひろ 1983年生まれ。批評家、ライター、DJ。単著に『SMAPは終わらない』、共著に『ジャニ研!』。