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若者の政治意識 自明性を失う「保守」と「革新」 宇野重規・東京大学教授

前回参院選で事前の啓発イベントに集まった若者たち=2016年6月、東京・新宿駅前

 「保守」と「革新」という政治的ラベルが時代遅れになったと言われて久しい。にもかかわらず、日本の有権者が政治をとらえるにあたって、この対立軸はまだ有効性を失っていないようだ。ただし、「保守」と「革新」が何を意味するかについては、かなりの変化が見られる。

 遠藤晶久とウィリー・ジョウによる『イデオロギーと日本政治』によれば、高齢者が共産党をもっとも革新的な政党と見ているのに対し、若年層は日本維新の会をもっとも革新的と考えているという。これは50代の筆者にとって驚きの指摘である。

 日本政治においては長く、憲法や安全保障といった争点を中心に保守と革新の対立軸が形成されてきた。「大きな政府」か「小さな政府」といった社会的・経済的な次元ではなく、あくまで日米安保や防衛力の強化がイデオロギーを決める最大の争点であり続けたのである。

 これに対し、40代以下の層においてはむしろ、「既得権益への挑戦」や「改革派」のアピールこそが「革新」の判断基準となる。この層にとって「革新」とは「変化」を意味する。変化の方向性を考慮に入れないとすれば、これはこれで一つの理解と言えると著者たちはいう。

「右」「左」が逆転

 橘玲もまた、『朝日ぎらい』において、同様の傾向を示す世論調査に言及している。読売新聞・早稲田大学共同世論調査(2017年)によれば、70代以上では、もっとも保守的なのが自民党であり、共産党がリベラルに位置づけられている。これに対し18~29歳では、もっとも保守的なのが公明党で、次いで共産党、もっともリベラルなのが日本維新の会である。これを橘は「右」と「左」が逆になった「不思議の国のアリス」と呼ぶ。

 ただし、橘はこれを「若者の右傾化」などと誤解してはならないという。50代以上と40代以下の間に断層があるとすれば、その原因は冷戦の終焉(しゅうえん)とバブル崩壊にある。「変わらなければ、生き残れない」と言われ続けたバブル以降の世代にとって、年功序列・終身雇用という日本型雇用制度を守ろうとする年上世代は「保守」以外の何ものでもない。かつて「リベラル」だった世代が高齢化することで、言葉の意味が入れ替わったというのが、橘の解釈である。

「自民支持」誤り

 この点に関連して、三春充希の『武器としての世論調査』が興味深い点を指摘している。第48回衆院選(17年)における比例投票先出口調査を見ると、自民党支持が18・19歳や20代で多く、立憲民主党や共産党支持は60代周辺に多い。これは一見すると、自民党が若年層に支持され、「リベラル」が高齢化したという仮説を支持するように見える。

 しかしながら、その一方で、意識調査によれば、自民党の支持率は高齢者ほど高い傾向にある。この矛盾について、三春は若年層において「支持政党なし」や「わからない」と回答する人が多いことに注目する。

 与党であれ、野党であれ、若い世代ほど支持率は下がる。ただし、その下がり方には違いがあり、野党の方がより激しい。与党支持がかろうじて残っているのに対し、野党支持が劇的に減ったのである。結果として、投票に行った人に限って言えば、与党支持が相対的に多くなる。したがって、いまや自民党は若年層にこそ支持されているという議論は誤りであると三春はいう。

 いずれにせよ、現在の50代以上にとって自明であった「保守」と「革新」の区分は、40代以下の世代にとって自明性を失っている。若い世代にとって、どの政党を支持すべきかについて迷いがある以上、政党再編以上に、政党を評価する軸の再編が急務と言えるだろう。=朝日新聞2019年6月15日掲載