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「怖かわいい」ワニの世界観をユーモラスに 山口マオさんの絵本「わにわにのおふろ」

文:日下淳子、写真:黒澤義教

――2004年から幅広い年齢の子どもたちに人気を誇っている絵本「わにわに」シリーズ。ワイルドなワニがおふろに入って歌を歌ったり、豪快に肉を料理したり、おまつりに出かけて行ったり、子どもが一緒にやりたくなるような展開にワクワクする物語だ。絵と文章はシンプルながら、2歳の子どもでもわかりやすく、5歳の子どもでもおもしろい。小風さちさんの洗練された言葉と、山口マオさんの描く力強いワニが、なんともいえないユーモラスな雰囲気を醸し出している。どんな発想からこのシリーズが生まれたのだろうか。

 1作目の『わにわにのおふろ』は、3年ぐらいかけてじっくり絵本を作りました。文章を書いた小風さんは、以前、東京の石神井公園にワニが出たというニュースがあったときに、ワニを見に行ったのだそうです。そのときはワニに会えなかったのですが、それからワニが気になって、静岡の熱川バナナワニ園に通って、ワニの生態を観察したり、研究したり、飼育員に話を聞いたりしたそうで、そうして『わにわにのおふろ』の原作ができあがっていきました。

 お話に出てくるワニは、洋服を着たようなキャラクター化したものではなくて、動物らしいゴツゴツしたワニで表現してほしいという思いが小風さんにあって、それで絵をぼくが担当させていただくことになりました。小風さんとは、何度も打ち合わせをしましたし、通算3回ぐらいは熱川バナナワニ園に行って観察しましたね。ワニの特徴や動きを、なんとなく体で感じ取るようにしてました。

「わにわにのおふろ」(福音館書店)より

 絵本って絵の印象が非常に強いですけれど、実は世界観を作るのは文章です。すごくいい文章は、読んだだけですぐイメージが浮かびます。小風さんは自分の中での思いやイメージを熟成させて形にして、いらないものを削って、子どもたちに届けるということをすごく大事に考えていて、どう書いたら子どもたちに素直に届くかを、きちんと考えて作っています。だから無駄がないし、わかりやすいし、伝わりやすい。

 たとえば、このページの言葉は「じょろろーん」しかない。ぼくに届けられる文字も、「じょろろーん」しかなくて、ラフ(簡単なイメージスケッチ)もない。

「わにわにのおふろ」(福音館書店)より

 普通の作家さんだったら「わにわには、じょろろーんとおふろに飛び込みました。お湯があふれました」、そんなふうに書くんですけど、そういう水があふれたというのは、絵で表現してほしいとおっしゃってね。絵で伝わることを文字で書く必要はない、というのが小風さんのお考えでした。確かにそれがうまくいけば、コンビネーションとしては最高なんですけど、そのぶん、絵描きに課せられたハードルは高かったですね(苦笑)。

――主人公のわにわには、ぎょろりとした目、ごつい皮膚、見た目はリアルなワニ。そのワニらしさが版画でよく表されていて、一見怖い印象もある。しかしそのワニが、まるで子どものようにふるまう様子が、この絵本のおもしろさ。山口さんは、どんなふうにこのキャラクターを描いていったのか。

 ぼくの考えとしては、子どもというのは「かわいい」という部分と、「怖い」という部分、両方とも魅力なんじゃないかなって思うんですね。わにわにで、そういう「怖かわいい」という感じが出せたら……ぼくが子どもだったらそれがいいなと思っていたものですから、自分が感じるワイルドなわにわに像を、そのまま描いてみました。

 わにわにのシリーズは、すべて版画で描いています。版画は、くっきりと太くて力強い線が表現できます。でもやり直しがきかないので、下絵を4回ぐらい描くんです。さらに1つの絵を4版ぐらいに分けて版木を彫って、刷り重ねることで1枚の絵ができるので、けっこう手間がかかります。ただ、版画で刷ったときの完成度っていうのは、直接描いたのでは出せない感じがあって、全然違いますね。

――わにわにの本には、擬音が多く使われている。「ずる ずり」というワニが歩く音、「じゃば じゃば」と水が流れる音、この音が心地よく、真似する子どもやなりきって遊ぶ子どもも多いという。

 わにわにのシリーズは『わにわにのおふろ』に始まり、『わにわにのごちそう』『わにわにのおでかけ』『わにわにのおおけが』『わにわにとあかわに』と、2、3年ごとに1冊作っていきました。保育園などにも置いてくださって、子どもたちが喜んでくれるのは嬉しいですね。

 ある保育園では、畳敷きの和室コーナーがあるんですが、わにわにを読んでもらった2、3歳の男の子が、絵本さながらに「ずりずずず、ずりずずず」と言いながら「誰もいない、誰もいない……」とその部屋に入ってくるんだそうです。絵本の文章を覚えちゃってるんですね。そこで「クィ、だれ?」とその続きを保育士が言ったら、向こうから別の女の子が「でてきたのは、あかいわに」と言いながらやってきて、びっくりしたと言ってましたね。まさに絵本の再現ですよ。子どもがわにわにになりきって遊んでいるというのは、よく聞きます。給食でものを食べて飲み込むときに、「ぐびっ ぐびっ」と言いながら上を向いて飲み込んだりするシーンも、やるそうですよ。

「わにわにのごちそう」(福音館書店)より

 お行儀が悪いんだけど、思わず笑ってしまうって先生は言ってましたね。親がいたらこんなことすると怒られちゃうんだけど、ひとりでお風呂に入って、お風呂に飛び込んで、歌を歌って……と、やりたい放題やって出ていくわにわには、子どもからしたら羨ましいのかもしれないですね。

 いままで絵本をいくつか描いてきましたが、子どもも大人も、両方に通用するようなものを作っていきたいなと思うんです。うちの母親がもう96歳になるんですが、そういう老人でも楽しめるような絵本というのが、あってもいいのかなと。仕事もやめて、体も不自由だったりする人たちが、外で飛び歩いたりしなくても、楽しめる絵本というのが必要なのかもしれない、と。そういう作品にも、これから取り組んでいけたらいいな、と思っています。