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漫画「三国志メシ」本庄敬さんインタビュー いにしえの料理を作る楽しさ見せたい

文:加賀直樹、写真:有村蓮 ©本庄 敬/潮出版社

――6月上旬、東京・半蔵門。調理場付き集会室では、中華料理人、漫画家、編集者が一堂に会していました。次回以降の「三国志メシ」の〝食のテーマ〟に合わせて考案されたこの日のメニューは、胡椒餅、薄餅(バオビン)の牛肉添え、麻婆豆腐など7品です。監修・調理にあたったのは、中華料理の重鎮・茂手木章さん。仕込みを開始して調理から約4時間後、手の込んだ料理の数々が完成しました。調理台で試食が始まります。ああ、良い匂い! 本庄さん、さっそく夢中で食べていらっしゃいますね。

 (もぐもぐ)記者さんも、カメラマンさんもどうぞ!

――お言葉に甘えて、いただきます。(もぐもぐ)この「胡椒餅」、皮がさっくりしていて美味しい!

胡椒餅

 (茂手木さんが横から解説)「この皮は、ラードをたっぷり入れた薄力粉をこねる油皮と、タイプの違う水皮を交互に重ねて、何度も何度も伸ばしてつくるんです。だから、クロワッサンみたいに層ができて、サクサクの食感になるんです」

 美味い! 中身の肉餡はスパイシー。うむ、じつに凝っていますね。

――「三国志」と「食」との異色コラボの今作品。人気作『蒼太の包丁』もそうでしたが、本庄さんの作品の魅力は、料理すべての描写が緻密でディティールが細かくて、まるで湯気が立ってくるような、臨場感があるんです。「食」への思い入れと愛を感じます。

 ありがとうございます! たとえばスープ。油膜が表面にできるでしょう。あんな部分は徹底的に描き込みます。あったかいものを、どうあったかく描くか。冷たいものをどう冷たく描くか。そんなことは無理なのはわかっているんだけど、匂いのする、味のしてくる表現ができねえか、って模索しながら描いています。こだわる、っていうんじゃなくて、「模索を続けている」って感じ。

――調理中は、茂手木さんの料理の姿を、おびただしい数の写真に収めていましたね。

 あとで自分で眺めるんです。「いい湯気出ているな」って。手伝いのスタッフにも資料を回しながら、ああでもねえ、こうでもねえ、写真を見せてイメージを伝えています。

――写真は何枚ぐらい撮りました?

 ええっと、300枚ほど。俺、言葉がままならねえものですから、北海道の方言キツくて。たまに俺の言葉、聞き間違えられるんです。だから、写真で。

――『三国志メシ』に登場する中華料理店の家族は全員、「三国志マニア」。「桃園の祝い膳」のほかにも、魏の創始者・曹操が口にした夜食「鶏肋の羹(スープ)」、蜀漢の国を建てた「三国志演技」の主人公的存在・劉備の、母子の絆にまつわる「洛陽のお茶」の話などなど、「三国志」ゆかりのストーリーが満漢全席です。本庄さんは、もともと「食」への関心を強く持っていたのでしょうか。

 俺は北海道西部の漁師町・寿都(すっつ)の出身で、うちの親は漁師でした。「雇われ船頭」って言って、道内各地の漁場をまわる仕事なんです。静内とか、羅臼とか、ぐるぐるとその時々に雇われる漁師だった。俺は高校出るまでずっと寿都に住んでいたんです。高校を出て、東京の漫画の専門学校に行った。将来は親父と2人で漁師をしたいな、っていう気持ちがあったけど、いっぽうで漫画家になるという夢があったんですね。漫画の専門学校に通って、その後、札幌在住だった恩師の石川サブロウ先生に知り合いました。

――ご自身がアシスタントを務めることになった、北海道出身の漫画家・石川サブロウさんですね。

 石川先生は当時、札幌にいらしたんですよ。石川さんの漫画が大好きでした。『警察犬物語』『北の土竜』。

――それで本庄さんご自身は、1986年に『北へ ―君への道―』が手塚賞。86年に「週刊少年ジャンプ増刊号」でデビューを果たしますね。

 動物と自然(の物語)ばっかり描いていたんです。いまも、いずれは動物と自然だけで行こうと思っているけど、20年ぐらいパッとしないまま、鳴かず飛ばずで過ごしました。『蒼太の包丁』を2003年に描いた時、「職人さん、面白いな」と。俺、それまでグルメ漫画って嫌いだったんですよ。「ひとのつくってくれたものに、グダグダ文句を言うな!」って。「うめ、うめ(うまい、うまい)」って食っていればいいじゃないか、と

――黙って食え、と。

 そうそう。全然興味がなかった。『蒼太の包丁』の担当となる編集者が当時、1年半ぐらいですかね、俺が描いた作品を全部チェックして、寸評を書いて送り続けながら、「料理モノ」を描くよう説得し続けてくれた。彼は「グルメ漫画なんか描いてもらおうと思っていません。描いてほしいのは、職人漫画なんです!」。俺、「それならやらせてもらいます」。初めて納得して、始めさせてもらったんです。

――「食」というより「職人漫画」というアプローチ。反響はいままでと全然違いましたか?

 ええ。その半面、「食」って本気で好きな分野なわけじゃなかったから、これはちょっとまずいなと、食うモノについて手当たり次第で調べました。北海道出身だから魚も野菜も目の前に美味いのがある、採ったものを食うって感覚。以前は深くまで考えていなかったんです。いろんなものを食って、好き嫌いをなくして。気持ちを盛り上げていくうちに、「食」にのめり込んでいったんです。

――今作は、2017年3月に始まったweb「コミック トム」の連載ですね。この企画はどういういきさつから?

 版元の潮出版社には、横山光輝さんの『三国志』があります。1972年から始まって、累計8000万部を超えるベストセラーです。全60巻のうち、1巻を読むだけでも、食にまつわるシーンがいっぱい出てくる。「もしかしたら〝三国志〟と〝食〟をテーマにして新作が描けるのでは」と、いまの担当編集者が思いついたのがきっかけです。

――ハートフルな物語をつくる本庄さんらしい作品に仕上がっていますね。現代の中華料理人の一家が「三国志」の世界にタイムスリップするのを契機に、毎回、新たな発見がある。ひとに対する温かい視線を感じます。最後にはホロリとさせられ、こちらが元気をもらうような読後感。

 嬉しいです。コンセプトのなかに、「三国志」の食を口にした瞬間、現実の登場人物の現実世界の悩みも動き出す、というのがありました。どんな人でも、生きている時に悩みが出たり、どうしても乗り越えなければいけない壁が出たりする時には、ひとくち、料理を口にすれば、「よし、頑張るか」って動き出せる。そこに、「三国志」の武将や軍師の奮闘を重ね、二重に奮起できるような作品にしたら、と担当編集者と一緒にストーリーを作っていきました。

薄餅(バオビン)の牛肉添え

――版元の出版社から最初、「三国志メシ」執筆の提案があった時、本庄さんはどんなふうに思いましたか。

 じつは当時、身体を壊していたんです。忙し過ぎて、生活に疑問を考え始めて。事務所を1回解散し、仕事がしばらくできない状態だった。俺のなかで考えたのは、いつも俺が「やりたくない」と思った時、ちょっと弱っている時、あと、人間関係でイライラしている時にこそ、自分自身が成長できるような体験が続いてきたんです。漫画家を目指した時も、動物から料理に題材が移った時もそうだった。だから実は、「三国志」と「食」という大きいテーマに対して不安もあったけど、決心して、横山さんの『三国志』全60巻、読み込んだんです。

――『三国志』を読み返してみて、新たな発見はありましたか。

 いっぱいあります。吉川英治先生の小説版『三国志』も読み込みました。驚いたのは、ことばを大事にしているところ。わからないことばがあると、たんびたんびに辞書を引く。すげえ時間食うんですよ。でも面白い。「このことば、漫画でも使えるな」って。「三国志」を知ることによって、いままで気づかなかった部分、見過ごした部分がちょこちょこ見えるようになってきた。いちばん大きな発見は、本来、漫画が持つ「自由」について。「漫画って自由だ」ということが、「三国志」を通じて改めて見えてきたんです。

――と、いうのは?

 表現する自由。「三国志」を舞台に料理漫画を描く時、その時代そのものの資料って一切ないわけです。後世に記され残っている資料を取り寄せ、自分のなかで咀嚼したり、読み込んだりしながら、想像し、三国志好きの編集者と話を広げていく楽しさ。そこに夢が広がるんです。たとえば名場面の「桃園の誓い」では、まず、横山版『三国志』を読み返し、「ああ、肉、果物、野菜を用意したのか」。現存する最古の料理書として知られる『斉民要術』(雄山閣)を参考にしたり、「三国志」にまつわる〝食のテーマ〟を片っぱしから担当編集者が集め、俺と一緒に決めて、一話形式(一部、前後編もあり)のストーリーにしていきました。そして、今日みたいな料理再現会を行って、実際に中華料理、中国茶の界隈で活躍する重鎮の方々に毎回、指南を仰ぐんです。現代の俺たちが食べても美味いレシピをつくってもらい、実際に食べて、想像を膨らませます。「彼らならこんなモノを食っていただろうな」「そこに現代の人間がタイムスリップしたら、どんなことになるかな」。漫画が本来持つ楽しさっちゅうか、そういうものが、また芽生え始めたんです。

料理再現会にて麻婆豆腐を再現中

――二千年近く前と現代とが行き来し、物語が展開するのも「自由」の魅力。そこに、改めて気づいたのですね。

 だから、描いていて楽しいんですよ。「三国志」の食にまつわるシーンを片っ端から探し、現代とリンクした物語をつくっていく。肉まんを発案した天才軍師・孔明のこと、曹操が夜食として飲んでいた鶏肋スープのこと、甘いものに目がない曹丕が愛した果物のスイーツ……。「食」という窓から「三国志」を見つめ直してみると、驚くほどストーリーが存在するんです。ただ、三国志ファンの読者の皆さんは、きっと武将の雄姿を見たい。なので、左慈の魔法みたいな力をきっかけに現代から「三国時代」に飛ぶ、という仕掛けをつくってみたんです。それで戦に参加するなど、その時代の人物と現在の人物とが深く関わるようになる。

――一つひとつの物語を「膳」で数えている『三国志メシ』、今作は「八膳目」までですね。

 8月20日に第2巻、10月20日に第3巻が出る予定です。 

――「三国志」には、数々の魅力ある人物が出てきます。本庄さんは誰がお好きですか。

 左慈ですね。

――左慈。峨眉山で30年にわたる修行の末、石壁の中から遁甲天書三巻(天巻・地巻・人巻)を手に入れ、方術が使えるようになったとされる、「超能力お爺さん」。なぜ?

 だって、自由でしょう。好き勝手を言ってさ。時々、曹操をいさめたりもして。あと、曹操って最初はかなり嫌いだったんです。英傑なのに意地悪で。でも、この漫画を描いているうち、「曹操って、ひょっとして凄い魅力的な人かもな」って気がしてならないんですよ。劉備はやっぱり、子どもを世継ぎとしての器に育てられなかった。それに比べて曹操は、子どもを立派に育てるし、意外と子煩悩そう。思うほどそんなに厭な奴じゃねえのかな、って思う。

――ちょっと意外ですね。

 曹操を違う目線で描いたら、結構面白いんじゃないかな。第2巻では、曹操がたくさん出てくる予定です。多忙な中、短い時間でも子と関わる、いいお父さんとしての姿も出てくる。

――「アナザー曹操」。楽しみです。

 子どもの頃は、劉備がすごく好きだった。けど、よくよく考えたら、部下の趙雲が敵陣から幼き我が子を救ってきたのに「私の子どものために、大切な将を失うところであった」って、地面に投げ捨てる有名なシーンなんか、「あれ、父親として失格じゃないのか」って。見方が年齢と共に変わってくる。漫画ってそういうものじゃないですか。小中学生の時に読んでいたものが、いい大人になって読み返すと、全然違うことがある。

――思いがけない深い示唆に富んだ作品だと気づかされることがありますよね。

 名作ってきっと、そうやって何回も読み返せるものなのかな。

――「食」というアプローチを通じ、名作を読み返す動機付けになるかも知れませんね。

 もう1回、『三国志』を読んでほしい。流し読みするんじゃなくて、俺みたいに、ゆっくりゆっくり。時間をかけて読むと全然違うんじゃないかな。

――巻末では紹介した料理のレシピまで掲載していますね。

 web版の読者から「本当に美味しいんですか?」って質問をいただくんです。この料理を実際に食べてもらったらわかるけど…、この漫画の読者にも「本当に美味しいんです」というのを伝えたい。〝料理をつくる楽しさを見せる〟というのが俺のテーマなんです。調理の過程をどう面白く見せられるか。「なぜ、この料理はこんなに高いんだ」「この彫刻はこんなに高価なのか」。それは、つくる過程を見ていないからなんです。どれだけ手間をかけて、知恵を絞って、いろんな人たちが絡んでいるのか。この漫画だってそうです。今の料理漫画の世界では、こんな手のかかった調理取材、なかなかしません。なんで、料理だったら、漁師、農家とか…食に関わる背景にあるものをイメージする〝想像力〟を感じてもらえるような漫画を、俺は描きてえな、と思います。

――「自由な」漫画だからこそ、それを実現し得るのですね。小説よりも写実的に、映画よりも創造的に。時代をも自在に飛び交うことができる。

 言われたことがあるんですよ。料理漫画で調理手順を描いて、「誰がそんな手順なんて読むか」と。けど、俺は違うと思う。腹の底では「いや、そんなことはねえ」って。誰も描かねえなら、俺が描くって思っているんです。

――それにしても、さっき頂いた「胡椒餅」の、あの調理手順の複雑さといったら! かつて台北の夜市で食べた経験があるけれど、今後は「胡椒餅」に対する概念や姿勢が変わりそうです。

 「あれをつくってみたい!」って、思わせてぇんですよね。漫画には、そういう力を付けなければと思っているんです。「牛肉と胡餅(こへい)」のテーマで登場予定のメニューなんで、お楽しみに!

――ぜひ、何膳も何膳も味わいたいです。ごちそうさまでした!

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