インターネットの検索に、違和感を覚える人がいるのはなぜか。
「本の索引と比べると、その理由がわかります。索引は、一般的な知識をさらに選別して明確にし、自分の知の体系に組み入れることができます。インターネットの場合は、断片的な情報の荒海に投げ出されるようなものではないでしょうか」
自身は電子メールも使わないが、ネットを駆使する人を見て、そう考えるようになったという。
この本は、読書を軸に、書物と記憶の関係を描いている。幼いころ読んだ絵本の思い出から、江戸時代の草双紙や、明治の政治小説、近代小説などをたどり、中世ヨーロッパ修道院の読書法を調べた。そして、13世紀に「索引」が生まれ、検索機能を備えたことで、書物は知の媒体として完成された、と跡づける。
大学の仏文科を卒業後、出版社で翻訳書などの編集にあたった。
「西洋はなかなか理解できないなと思い、30代になって自分の“礎”を持ちたいと、独学で漢文を始めました。和本を買ってきて、1日何十字と決め、朝、寝床で覚えて、駅まで歩く20分間に暗唱しました」
そのうちに「ああ、そうか」とわかることもあり、「四書」を10年ほどかけて読みおえた。
40代で独立し、53歳のときに出した『書を読んで羊を失う』が、日本エッセイスト・クラブ賞を受ける。書き続けるうちに、「根っこの方にさかのぼってきた」という。
今回の本の終章は、柳田国男だ。旅行と読書が結びつき、地図と地名を索引とする、独自の記憶術を持っていた。だが晩年、記憶が衰え、同じことを何度も尋ねるようになる。それをみる著者の目はあたたかい。
「必要なものだけ取り入れて、あとは捨てる。だから生きていける。安心しますね。忘れていいんだと」(文・石田祐樹 写真・横関一浩)=朝日新聞2019年7月13日掲載
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