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「生命の歴史は繰り返すのか?」書評 カリブ海の島々でトカゲを追う

評者: 長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2019年07月20日
生命の歴史は繰り返すのか? 進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む 著者:ジョナサン・B.ロソス 出版社:化学同人 ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784759820072
発売⽇: 2019/06/03
サイズ: 19cm/382p

生命の歴史は繰り返すのか? 進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む [著]ジョナサン・B・ロソス

 進化とは、何百万年、何千万年かかって起こることで、自分たちが生きている間に目にするなんて無理なことだろうか。また、進化は複雑で偶然に左右されているので、たとえ時間を巻き戻して同じ条件で繰り返しても二度と同じことは起こらないのかもしれない。
 この二つとも間違いではない。しかし、そうではないこともあるのだ。本書で、進化生物学者のロソスは、トカゲを対象にいくつもの実験を行い、進化が数年単位でも起こり得ること、そして、同じ条件を与えれば異なる集団に同じ現象が起こることを示している。その書きぶりはわかりやすく、読みやすく、なによりも著者が本当に楽しみながら研究していることが生き生きと伝わってくる。
 歴史的に見て、ずいぶん系統が離れている生物どうしでも、似た形質を進化させることを収斂進化と言う。有袋類のフクロオオカミが、真獣類のオオカミとそっくりであることや、魚類のマグロと鳥類のペンギンと哺乳類のアザラシとが、それぞれ速く泳ぐのに適した流線型の体形をしていることなどがそうだ。
 著者を最も驚かせた例はヤマアラシである。北米にいるカナダヤマアラシと、アフリカに住むアフリカタテガミヤマアラシとは、遠く離れたトゲのない先祖から独立に、あのトゲトゲを持つずんぐりむっくりの体形に進化したのだ。
 収斂進化が実際にどのように起こるのか、著者は、カリブ海の島々を舞台にアノールトカゲを使った大規模な実験を始めた。トカゲの足は、枝をつかむ役目をしている。植生が貧弱で細い枝しかない環境では、トカゲの足は短くなり、大きな木があるところでは長くなるのではないか?
 事実、そうだったのだ。数年かけた実験が、一夜のハリケーンでむなしくフイになることを何度も経験しながら、進化生物学者はあきらめない。フィールドワークのわくわくが存分に楽しめる一冊である。
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 Jonathan B.Losos 生物学者。セントルイス・ワシントン大教授。「ネイチャー」誌などに論文多数掲載。