1. HOME
  2. インタビュー
  3. 中原アヤさん「おとななじみ」インタビュー 愛と笑い、大人の幼なじみラブコメ

中原アヤさん「おとななじみ」インタビュー 愛と笑い、大人の幼なじみラブコメ

文:横井周子  (C)中原アヤ/集英社

少女漫画の王道「おさななじみ」。実は少年漫画にヒント

――『おとななじみ』のテーマは「おとな」×「おさななじみ」。少女漫画の王道設定ともいえる「おさななじみ」ですが、『おとななじみ』着想のきっかけを教えてください。

 私は漫画を描くときに会話のテンポを一番大事にしたいと思っているので、作品を一から創る場合、キャラが知らない者同士だとあまり会話が弾まずいきなり躓いてしまうことが多いんです。なので今回も、ある程度顔見知りで遠慮なく話せる関係性を、と考え、昔から好きな設定である「おさななじみ」にしようと思いました。掲載誌の読者さんが大人女子のみなさんなので、大人になったおさななじみのお話になりました。

 少女漫画の王道設定ではありますが、私が特に好きなのは恋愛要素の少ない少年漫画作品に出てくるおさななじみなんです。主人公男子をいつもそばで見守っているおさななじみヒロインが大好物なので、今回のキャラ設定も世話焼きタイプの楓を主人公に、相手は少年漫画のヒーローみたいなキャラにしようと思い、ハルが生まれました。

――おさななじみを描いた漫画や映画、小説などで好きな作品がありましたら教えてください。 

 『名探偵コナン』の新一と蘭ですかね。平次と和葉もいいですよね。どちらも両片思いでじれったい感じがいいです。何度キュンとさせていただいたかわかりません。少女漫画では命の危険にさらされるようなシチュエーションがなかなか生まれないので、少年漫画作品のそういった状況で繰り広げられる恋愛に一漫画家としても憧れがあります。

 『ファイナルファンタジーⅦ』のクラウドとティファも好きです。やっぱり主人公を影で支える系おさななじみヒロインが健気で好きですね。

――少女漫画の王道と思いきや、実は恋愛をメインテーマにしていない少年漫画やゲームの中にヒントがあったのですね。『おとななじみ』のもうひとつのテーマは「おとな」ですが、中原さんが大人を感じるのはどんな時ですか。この作品では大人をどんなふうに描いてみたいですか。

 大人を感じるとき…そうですね…ちょっといい靴を躊躇なく買えたりしたときですかね…。大人ってなんでしょうね…。私にもわかりません…。という気持ちをそのままに、この作品では「大人ってなんだろう…わからん…」と悩む、大人になりきれない人たちを描こうと思っています。だから、本当の大人は出てこないかもしれないです。

「おとななじみ」©中原アヤ/集英社

24歳は大人の思春期 「少女漫画家は向いてないと思った」頃

――主人公の楓は好きな人から「お母ちゃん」と言われちゃったりもする面倒見のいい女の子ですが、どのように生まれたキャラクターですか。

 ありがたいことにコミックス10巻以上続く長い連載を2度ほど描かせていただいて、私自身の引き出しも少ないのでだいたいのことはもうやり尽くした感がありまして。描いたことのないものを描いてみようと思い、主人公が最初から相手のことを一途に好きな設定にしました。長い時間をかけて誰かを好きになるという作品を描くことが多かったので、はじめての挑戦です。主人公の名前は一番多く書かないといけないのでいつもカタカナなど簡単に書ける名前にしていましたが、今回は画数の多い漢字で。うるさい主人公が多かったので少し控えめに、など、割と細かいところではじめての挑戦を詰め込んでできたのが楓というキャラクターです。苦労することもありますが、自分の刺激にもなって楽しく描かせていただいています。

――楓のおさななじみ・ハルは、猫のさぶちゃんを愛する猫系男子。ハルを描く時のポイントや描いていて楽しいところを教えてください。

 少年漫画の…もっと詳しく言うと私の大好きな男子向けハーレム作品の主人公のような、素直で流されやすくて熱くてちょっとバカな男の子を目指しています。かっこいい、より、かわいい、を大事にしたいですね。前回『ダメな私に恋してください』という作品で、黒沢主任というあまり感情が表に出ないキャラを長く描いていたため、明るく元気に笑うハルを描くのがすごく気持ちいいです(笑)。なので、表情豊かにくるくる変えていこうと思っています。服もカジュアル系と決めているので流行りの抜き襟、オーバーサイズシャツによる萌え袖、ゴツいスニーカーなど私好みのファッションが描けて張り切っています。カラーでも派手色が使えて楽しいです。

――ハルもさぶちゃんもかわいいですよね。猫はお好きですか。

 ずっと犬を飼っていたので犬派だったのですが、最近身内が猫を3匹保護しまして。お家に見に行ったり毎日送られてくる写真を見ていてすっかり猫も大好きになりました。今回出てくるさぶちゃんという猫もそのうちの1匹をモデルにさせてもらっています。さすがに3匹描くのは大変なので、1匹だけでごめんねというかんじで…! 資料として送ってもらう写真もいちいちかわいくて癒やされています。自分で飼うのはなかなか大変なので、ありがたいです。

「おとななじみ」©中原アヤ/集英社

――これまで『ラブ☆コン』では高校生~大学生、『ダメな私に恋してください』シリーズではアラサーの主人公を描いていらっしゃいましたが、『おとななじみ』の楓とハルは24歳。描いていて違うところや心がけていることはありますか。

 24歳は大人でも子供でもない中途半端な年齢、大人の思春期なんじゃないかなと思っています。大学を出て就職してちょっと落ち着いた頃だけど中身は学生の頃とそんなに変わりなく、大人とは…って考えてしまって悩みも多いのでは…。大人と呼ばれる年齢なのに、大人になりきれない悩みや葛藤をこの作品で描ければいいなと思っています。身近に子供の頃から一緒にいる人がいるとなおさら子供の頃の記憶が近くて悩みも増えるんじゃないかなと思います。

――中原さんご自身は24歳の頃どんな感じでしたか。

 ちょうど漫画家としてデビューして、初めて連載を持たせてもらった頃ですかね。普通に会社員をしていた時もあるのですがまだ本当に子供で責任感なんて一切なかったので、初めての連載でやっと大人としての責任感を持てるようになりました。大きな会社の、有名な雑誌に連載をさせていただき、表紙なんかも飾らせていただくので、プレッシャーが半端なかったです。見事にそのプレッシャーで玉砕したまま何年か虚無のまま過ごしましたし、少女漫画家は向いてないとも思いました。社会人として会社で働いていてもちょうどそんな大きな仕事を任されたり、失敗したり成功したりしながら、この仕事をいつまで続けられるだろうかとか、いろいろ悩む頃なんじゃないでしょうか。まだ若くて方向転換もしやすいですし。私はいろいろ悩んで運良く仕事を続けられていますが、すごくしんどい年齢でした。今思えば、強制的に子供モードから大人モードに切り替えなきゃいけない時期でしたね。

笑えてキュンとして体にいい。ラブコメ万歳

――1巻に収録されている中で、ご自身で特に気に入っているシーンやコマはどこですか。私は第一話、ハルが「俺は楓を守る騎士だよ」とものすごくかっこいいセリフを言った後でページをめくるとアホな顔をしているところが好きなんです。

 ありがとうございます! うれしい! 1巻1話は一番最初にそのシーンとハルのセリフが浮かんだので、そこに向けてエピソードを繋げていきました。自分でも描いていて楽しかったです。少女漫画家を名乗らせていただいていますが、かっこいいシーンを描くのは何十年描き続けていても本当に恥ずかしくて、かっこいい風シーンのあとはついごまかすように笑いを入れてしまいます。そろそろかっこいいシーンをかっこいいままバシッと決めて締めたい!と思っていますが、やっぱりアホの顔でごまかしてしまいました。

 2話のタコに懐かれるハルを描くのも楽しかったです。私は追い詰められるとストーリーから笑いが一切消えてめちゃくちゃ暗い雰囲気を漂わせてしまうという癖があり(心理状態がそのままお話に現れてしまう)しかも多くの場合無自覚なので、担当編集者様にいつも助けていただきます。その時もそのまま担当様に提出して「ボケて」のアドバイスをいただいたものの特に浮かばず、さらに「魚を持って現れるハルはどうですか」というたぶん私の漫画にしか出てこないであろうおもしろアイデアをいただいたので、先日見たタコの解体ショーを思い出しながら描かせていただきました。そこから気持ちが明るくなったのでなんとかストーリーも明るくまとめられました。担当編集者様さまです。まさか役に立つとは思っていませんでしたが動画に撮っておいてよかったですタコの解体ショー。切りたての新鮮なタコはおいしかったです。

「おとななじみ」©中原アヤ/集英社

――キレキレの会話の応酬も中原さんの作品の魅力のひとつですよね。『おとななじみ』でも突如猫マネが始まったり、絶妙な間があったり。ふたりの会話やギャグはどんなふうに創作されているんですか。

 会話はだいたいその場のノリと勢いで出てきます。普段からおもしろいことをメモしたりなどはほとんどしないです。漫才やコントと一緒で、繰り返し見てしまうとおもしろさが半減してしまうので、書いたセリフもあんまり読み返したりしないです。猫マネも急に出てきました! 追い詰められると突然おかしなものが出てくるんですね…。白菜フェスティバルもなんか勝手に出てきました。体に優しい淡白なお祭りですよね…。

――楓が仕事で白菜を誤発注してしまった時に出てくるパワーワード「白菜フェスティバル」も、タコとハルの爽やかな登場も、ラブコメディの名手・中原さんならではの表現なので、これから読まれる方にはぜひ注目してほしいですね! 中原さんにとって、ラブコメの魅力はどのあたりにありますか。

 名手だなんて光栄です!やはり私はど直球でかっこよかったり、ここで胸キュンさせますぜー!的なシーンを描くのが恥ずかしいので、笑いを入れることが許されるラブコメというジャンルに助けられているところがあります。コメディがそもそも好きで、笑いが常にそばにある生活を送っている関西人だから笑いを入れずにいられないだけかもしれませんが。笑うと寿命が伸びるというのも聞きますし、ストレスも発散できるし、キュンとしながら体にも良いなんて、ラブコメは素晴らしいものですね。そんな素晴らしいラブコメを生み出せるよう、今後もラブコメを頑張っていきたいです。

「おとななじみ」©中原アヤ/集英社

――影響をうけたラブコメ作品を教えていただけますか。

 私は河原和音先生のラブコメを読んで少女漫画家になろうと思ったので、やはり河原和音先生の作品の影響が大きいと思います。読み切りが特に好きで、初期のコミックス『幸せのかんづめ』に収録されている『男の子にはわかるまい』という作品を初めて雑誌で読んだとき、こんなにかわいい少女漫画があるのかー!って衝撃を受けたのを覚えています。好きな男子より体重が重いのを気にする主人公がめちゃくちゃかわいくて。こんなお話を描いてみたいなと思いました。

 それと多田かおる先生の『イタズラなKiss』も私のバイブルです。スピード感が読んでいて心地良いし、ラブとコメディの分量が絶妙なところを心から尊敬しています。

 他にも小さい頃からラブコメはたくさん読んでいて、特に弓月光先生の作品が好きでした。『エリート狂走曲』の哲也くんが好みすぎてリアルに恋していました。かっこよくておもしろくて最高なんです。小学生くらいのとき一番好きな漫画が『みんなあげちゃう』だったのでえっちな知識がやばかったです。絵柄だけでいうと一番影響を受けたのは弓月光先生かもしれません。小さい頃すごく真似していました。

描いたことのないものにたくさん挑戦する作品

――『おとななじみ』の作画はどのように行っていますか。

 もう世の中デジタル作画が当たり前ですが、私はまだほとんどの作業がアナログです。シャーペンで下絵を描いて、原稿にペンを入れ、トーンをカッターで切って貼ります。うちは絵を描くアシスタントさんがいないので、大変ですが全部一人で描いています。ベタも筆ペンを使って自分で塗ります。私はお話作りに9割のパワーを使い、絵は残りの1割で描くので絵について特にこだわりはありません。誰が喋ってるかわかればいいやというかんじで…。扉絵やちいさなカットなどはデジタルで仕上げることもあります。ちょっとずつ練習をしています…が、頭を使って疲れすぎるので本編にがっつり使うのはまだまだ先かな…。

 着色は完全にデジタルオンリーです。おとななじみはタイトルロゴもかわいくカラフルにしていただいているので、絵柄もかわいくカラフルに、を心がけています。

――連載開始時に掲載誌「ココハナ」の表紙を飾ったイラスト、80's風でとてもかわいかったです。作者から見た『おとななじみ』ならではのイメージや雰囲気があれば教えてください。

 80’s風のデザインは以前から大好きで、80’sデザインの本を資料として集めたりもしています。連載開始時の表紙イラストをデザイナー様から80’s風で、とご指定いただいたので楽しく描かせていただきました。実は表紙を描いたときにはまだキャラのイメージがしっかり固まっておらず、描きながら掴んだところもあります(笑)。80’s風がしっくりはまった気がしたので、おとななじみは今後も80’s風イメージ多めで描いていくかもしれません。

――最後に、今後の見どころを少しだけ聞かせてください。

 私にもどうなるか全くわかりません(笑)。が、まだ描いたことのないものにたくさん挑戦しようと思っています。とりあえず主人公楓とおさななじみハルと伊織、そしてこれから絡んで来るか来ないかわかりませんが美桜との三角?四角?関係にご注目いただければと思います。楽しい漫画にしたいと思っていますので、今後共よろしくお願いします!

――楽しみにしています! ありがとうございました。