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いくえみ綾さん漫画家40周年インタビュー ドラマ「G線上のあなたと私」で「波瑠さんにぜひ眼鏡を」とお願い

『G線上のあなたと私』は幸せな漫画

――まずはドラマ化おめでとうございます。すでに撮影現場はご覧になりましたか。

 撮影見学にはまだ行けてませんが、プロデューサーの佐藤敦司さんからメールでお話を伺っています。前の『あなたのことはそれほど』と同じ方でスタッフさんもほぼ同じなので心強いです。
 主人公の也映子を演じる波瑠さんには前回と真逆の、普通でちょっとおとぼけの女性を演じてもらうことになり、とても楽しみにしています。脚本も読ませてもらいましたが、キャラにより深みが出ていてとても面白いです。

――これまで『潔く柔く』『プリンシパル』の映画化や『あなたのことはそれほど』のドラマ化などを経験されていますが、作品が実写化されるのはどんな感覚ですか。

 実は未だに実感がないです。どんなに良く出来ていてもやはり別物だと思います。原作として使っていただくのは嬉しいし楽しいです。

――今回のドラマ化にあたって、何かいくえみさんからお願いしたことはありますか。

 波瑠さんにぜひ眼鏡を、と(笑)。

ドラマ『G線上のあなたと私』(c)TBS 
ドラマ『G線上のあなたと私』(c)TBS 

――眼鏡とバイオリンははずせないですよね。『G線上のあなたと私』は担当編集者からの「バイオリンの話を描きましょう!」という依頼がきっかけで描かれたそうですが、ご自身もバイオリンを習っていらっしゃるとか。もともとクラシック音楽が好きだったんですか。やはりバッハの『G線上のアリア』が憧れの曲でしたか。

 かなりずっと憧れの楽器だったんですが一歩踏み込めず、そうこうしてるうちに姉が全部決めてくれてハーイやりまーすと姉と共に始まったのでした。昔ピアノを習ってましたがそんなのは関係ない感じでバイオリンはめっちゃ難しいです。
 クラシックは20代初めくらいの頃から好きで、弾きたい曲は色々あるんですが、本当の弾きたい曲は難しすぎるので死ぬまでに弾けるかどうかわかりません……そして内緒です。

――『G線上のあなたと私』では、年齢も雰囲気もまったく違う三人の友情にぐっときます。也映子、理人、幸恵のキャラクターはどのようにできましたか。

 とりあえず男の子は出さないと、と思って、主人公はお気楽な感じにしたかったのでそれの対比として暗い奴にしました。40代の主婦は、実際のバイオリン教室はあれくらいの方が多いので(当時の自分も含む)いるよね、と思って出したら意外にいい働きをしてくれました。

『G線上のあなたと私』
会話のテンポが完璧! 笑わずにはいられない三人のバイオリン練習風景。(c)いくえみ綾/集英社
『G線上のあなたと私』 会話のテンポが完璧! 笑わずにはいられない三人のバイオリン練習風景。(c)いくえみ綾/集英社

――いくえみさんの作品に登場する男の子たちは「いくえみ男子」と呼ばれて大人気ですよね。毎回違う、色んな種類のかっこよさを表現されているように感じるのですが、理人を描く時に心がけたことはありますか。

 ぐちぐち暗い奴にしようと思ってました。顔が途中で描けなくなって、最初の顔を最後まで取り戻せなかったです……。

――暗いイケメンなんだけど時々かわいいというのが新鮮でした。漫画では也映子のギャグ顔も楽しいです。也映子の印象的なシーンは?

 ひどいふられ方をした男に思いがけず誘われて、だったら腹減ってるから回転寿司行こう、とむしゃむしゃ食べれるのがこの人のキャラを一番表してるかなと思います。

――同時期に連載されていたW不倫を描く『あなたのことはそれほど』とは違って、『G線上のあなたと私』は少女漫画っぽいテイストがより強いですね。

 全てを軽く描こうと思ってました。なので主人公のキャラをあんな感じに……。軽さだけで中身のない話にはならないようにとは気をつけてましたが、ネームの時にも何のストレスも感じない、幸せな漫画でしたね。

――いくえみさんの漫画といえば北海道。『G線上のあなたと私』の舞台も札幌かなと思うのですが、漫画に出てくる中でおすすめの場所があれば教えてください。

 最後の方で也映子と理人が座って話してるのは札幌駅から大通りまで続く地下歩行空間、通称チカホです。札幌市民はこれにより、真冬の寒い時でも楽々と駅からススキノまで歩けるようになったのです。なぜもっと早くできなかったのかと……(2011年完成)。

多くの仕事をこなす秘訣は「忘れること」

――中学2年生の時にデビューされて今年で漫画家40周年。おめでとうございます。仕事を長く続ける上で大切にされていることはありますか。アドバイスをいただけたら嬉しいです。

 漫画以外で働いたことがないので、仕事をしている方々についてアドバイスなどはとんでもないです。逆にこっちが勉強させてもらいたいくらいで(笑)。生まれ変わったらOLさんになって社内恋愛して結婚して子供3人産む、とかよく言ってるんですが、ずっと漫画を描くことが普通だったのでいつの間にか40年経った、という感覚です。続けるために、と考えたことはないのでわかりませんが、あえて言うなら、なんにも目標を持たずになんの気負いもなくやってきた、ってことでしょうか。なんかお間抜けですみません。

――デビュー40周年スペシャルアニバーサリーブック『Smile!』、濃厚な一冊ですね。くらもちふさこさんの自伝『くらもち花伝』と同じ制作チームとうかがいましたが、作品のセルフコメンタリーや、綿矢りささん・河原和音さん・堀内三佳さんらの寄稿、松田奈緒子さんとの対談など読みごたえがありました。先生と生徒の恋を描いた90年代の名作『I LOVE HER』の“セルフカバー”漫画も!

 本当に素晴らしい本を作っていただいて、何度も札幌に通っていただいた編集さんやライターさん、ご寄稿いただいた作家さんたち、感謝でいっぱいでございます。
 久しぶりに描いた『I LOVE HER』は着ている服がダサくて困りました。急に今風にするわけにいかないですしね……。セルフコメンタリーが後半疲れてかなりヨレた受け答えだったんですがライターの花田身知子さんのおかげでちゃんとした人に仕上がっているところがポイントです!

――奥田民生さんの気配をまとっていた新堂先生が今描かれるとこうなる、というのがおもしろかったです。寄稿の中で、くらもちふさこさんがある時期からいくえみ男子のイメージソースとなる方々の気配がわからなくなった、いくえみ男子が完成した証し?と描かれていて膝を打ったのですが、描き方を変えたりされたのでしょうか。最近気になる男子はいますか。

 くらもち先生が描かれていた、気配が感じ取れなくなった、というのは多分誰かをイメージして描くことが少なくなったからだと思います。明らかに好きな人を色々描いて来ましたが、そんなに好きな人も多くはないので普通にキャラを創ってます。
 気になっている男子は……いるようないないような……てことで。

――セルフコメンタリーではターニングポイントになった作品として『バラ色の明日』を挙げていらっしゃいますね。ラブストーリーで圧倒的人気を得た中で描かれた、人生の陰影に満ちた短編連作シリーズですが、ご自身ではこの作品のどういうところに転機を感じましたか。シリーズの中で特に思い入れのある回は?

 とにかく自分の描きたい雰囲気を全部詰め込もう、と始めました。読者のことも何も考えなかったです。とても自由で楽しかった。『Smile!』のエッセイで、「自分のためだけに描いたりはしない、誰かが読んで喜んでくれるのが原動力」と描いていますがこの時だけは何も考えてなかったかもな〜。思い入れのある回、というとそんなでもないですが、自分で好きなのは第2話「巷に雪の降る如く」と第4話「お日さまの日々」と第7話「PIECE OF MY LOVE」かな。

『バラ色の明日』第二話「巷に雪の降る如く」。事故で植物状態になった憧れの先輩が夢に現れる。伝えられなかった想いがあふれ出す切ない1コマ。(c)いくえみ綾/集英社
『バラ色の明日』第二話「巷に雪の降る如く」。事故で植物状態になった憧れの先輩が夢に現れる。伝えられなかった想いがあふれ出す切ない1コマ。(c)いくえみ綾/集英社

――死んだ男の霊にとり憑かれてその恋人に会いに行く「PIECE OF MY LOVE」。まるで恋人同士のような双子とその家族を猫視点で描いた「お日さまの日々」。憧れの先輩と親友との切ない三角関係「巷に雪の降る如く」。どれも割り切れないからこそ心に残るお話ですよね。未読の方にはぜひ読んでみてほしいです。『Smile!』の松田奈緒子さんとの対談では絵について「私は基本、自分はすごい下手だと思ってるんで」と仰っていて驚きました。進化されつつ、いつも今の空気をまとった絵を描いていらっしゃるように感じますが……。

 絵はほんとに、なんでこんな絵が描けないの…とブツブツ言いながら描いてます。でも特に練習はしません。描くほどに上手くなるとは思いますが、まあ限界はあります。見やすい画面を作りたいなといつも思っています。
 全てアナログで、コピー用紙に下絵を描いて原稿用紙にトレースして仕上げる感じです。ペンは丸ペンとかミリペンとかを作品で使い分けてます。

――デビュー30年以降はなんと「最大8本同時連載」もされていたとか。多くの仕事量をこなす秘訣はありますか。ちなみに最高月産枚数はどれくらい…?

 秘訣は、終わった原稿のことは忘れることです。最高は130枚くらいかな?

アラフォーのおさななじみを描く新連載『1日2回』

――39歳、おさななじみのれみと季(とき)。結婚していたけれど死別・離婚とお互いいろいろあって人生2ターン目の再会を描く『1日2回』。「ココハナ」2019年11月号(9月28日発売)で連載開始したばかりですが、この作品はどのように生まれたのでしょうか。

 読み切りの予告カットを描いた時に担当さんが「アラフォーにも見えますね」と言ったのでじゃあそうしようと思って作りました。モノローグを極力減らしています。

『1日2回』
久々に会ってもテンションは変わらない。おさななじみならではの再会シーン。(c)いくえみ綾/集英社
『1日2回』 久々に会ってもテンションは変わらない。おさななじみならではの再会シーン。(c)いくえみ綾/集英社

――アラフォーを描くおもしろさ・難しさはありますか。いくえみさんの40代はどんな感じでしたか。

 アラフォーと言っても基本的にそんなに変わらないなと、自分や他の人を見てて思います。私の40代はダイエットで幕開けしました。エステに行ったら「年齢的にも最後のダイエットだと思うので」と言われ、びっくりして頑張りました……。そして痩せてきたらエステ帰りにナンパされました。あれ、たぶん人生最後のナンパですね!

――「人生最後」って言葉がちらつきだすのが40代なんでしょうか、でもわからないですよね(笑)。『1日2回』連載第一話では、子どもの頃から現在までの二人の関係の微妙な変化がいっきに描かれました。描いていて楽しかったシーンは?

 終わった原稿は忘れるので今あんまり思い出せない……まだ刷り出し(注:印刷前のチェック)見てないので。あ、ちょっとずつ男になっていく季を描くのは楽しかったかな。

――『1日2回』、今後の見どころをすこしだけ教えてください。

 過去を掘り下げていきつつ現在にも戻りつつ、みたいな話になると思います。よろしくお願いします。

――楽しみにしています。ありがとうございました。

「好書好日」掲載記事から

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