両親を事故で失った青年が、水墨画に出合ったことで喪失感を乗り越え、自分の人生を歩み始める物語です。
大学1年生の青山霜介は、展覧会の設営アルバイトがきっかけで、水墨画壇の最高峰・篠田湖山に見出されます。筆を執った経験もない霜介を、湖山はなぜか内弟子に迎え、自ら指導を始めます。湖山の教えは「命を描くこと」。2年前に両親を亡くして以来、何もない真っ白な部屋に閉じこもるようだった霜介の世界は、水墨画に打ち込むことで少しずつ変容を遂げていきます。
本作で第59回メフィスト賞を受賞しデビューした著者は、自身が水墨画家。墨の線だけで表現する美の領域を繊細に伝え、主人公の成長を通して力強いメッセージを発信しています。
定価1500円+税 講談社 03・5395・5817