1. HOME
  2. 書評
  3. 「絵本原画 ニャー!」書評 猫画家集合、素直で自在に表現

「絵本原画 ニャー!」書評 猫画家集合、素直で自在に表現

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2019年09月07日
絵本原画ニャー! 猫が歩く絵本の世界 著者:100%ORANGE 出版社:青幻舎プロモーション ジャンル:児童文学研究・絵本研究

ISBN: 9784861527449
発売⽇: 2019/07/01
サイズ: 21cm/159p

絵本原画 ニャー! 猫が歩く絵本の世界 [執筆・構成]福永信

 猫――。猫は私にとって生活必需品なり。これがなきゃ生きて行けません。猫は芸術なり、美神(ミューズ)なり、愛であり、私自身なりと愛猫家の画家なら誰でも想う。
 だから猫が想像通りに描けないのだ。絵の対象になった途端、それはデフォルメされ、破壊しなければ芸術にならない。
 だからピカソもピカビアもウォーホルも頭が痛い。猫可愛がりのあまり、猫を神聖化して聖域に祭り上げて、猫と自己同一化。ついに創造の対象は、芸術的主題の外輪からはずされてしまった。
 猫曰(のたまわ)く、「なんでや、わてらが可愛いのは罪か!?可愛いものを可愛く描くのが画家ちゃうんか!今や、カワイイは世界共通言語になっとんとちゃうのか!」
 ハイ、画家は根性が曲がっとるので、対象をみにくく曲げて描くことが芸術やと思ってまんねん。
 「ワカッタ、そんな連中を相手にするのは止めや」
 そこで組織したのが絵本作家の猫の原画展だ。ここに集合した猫派の画家は、情に流されたり、ややこしいことは考えたりしない、思った通りに素直に自在に描きまくる。
 100%ORANGEやささめやゆきは幼児の気持ちをそのまま表し、町田尚子は映画的アングルで昭和の時代を情感たっぷりに猫生活を描く。瀬川康男はピカソに代わって悪猫が登場。きくちちきは目茶目茶、抽象表現主義で暴れまくってくれる。あきびんごは世界の民族衣装でコスプレを競うかと思うと夏の宿題のような猫採集。馬場のぼるの猫マンガ。にしまきかやこは猫画家がミロを次々贋作していく。石黒亜矢子の猫は怪猫に化けて、鳥獣戯画も杉浦茂もマッ青。本書にはさみ込まれた豆本は、おかざき乾じろ。手当たり次第に搔きむしる猫の行為そのままの現代美術。
 私ごと――。死んだタマを100匹制作中。やっぱり猫可愛いがりが祟って、絵になりまへん。ハイ、私は猫の下僕です。
    ◇
 ふくなが・しん 1972年生まれ。小説家。本書は15組の絵本作家が描く猫の原画やスケッチなど約250点を紹介。