1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 歌人・山田航が薦める新刊文庫3冊 最果タヒの初エッセー集など

歌人・山田航が薦める新刊文庫3冊 最果タヒの初エッセー集など

山田航が薦める文庫この新刊!

  1. 小泉八雲東大講義録 日本文学の未来のために』 ラフカディオ・ハーン著 池田雅之編訳 角川ソフィア文庫 1166円
  2. 『愛について/愛のパンセ』 谷川俊太郎著 小学館文庫 972円
  3. 『きみの言い訳は最高の芸術』 最果タヒ著 河出文庫 540円

(1)は小泉八雲ことラフカディオ・ハーンが明治30年代に東京帝大で教鞭(きょうべん)をとった講義録の選(え)りすぐり。西洋文学の知見から未来の日本文学がどうあるべきかを平明に論じており、日本における比較文学の目覚めだったといえる。この本が今復活する意義が大きいのは、人文学軽視の言論が大手を振る昨今の風潮にあって、ハーンの主張は人文学の擁護に利するからだ。そもそも19世紀のイギリス文学がハーンにいわせれば退潮著しいもので、それは現代の日本文学と似ている。文学とは、教養とは何か。百年以上前の問いは今も効果を失っていない。一方で、比較文学の輸入を通じて日本文化にナショナリズムを運んだハーンの負の側面も再検討の時期が来ている。

 (2)は昭和30年代初頭、20代のときに刊行した第3詩集『愛について』と第1エッセー集『愛のパンセ』を合わせた一冊。同時期に書かれた詩と散文を一緒に読める。ほとんどの人は老年になってからの谷川俊太郎の姿しか知らないかもしれないが、青年時代には愛を得られぬ苦悩をとつとつと語る瑞々(みずみず)しい文体だった。

 (3)は新鋭詩人の初エッセー集。改行の少ない疾走するような文体で書かれた、16ビートの言文一致体。「言葉がすべてコミュニケーションだと思っている時点で言葉は永遠に自由になれない」「オチも起承転結も、大嫌いだ」。他人の心を言葉で打ったことのある人と、ない人との差はどこにあるのか。詩人のとめどない饒舌(じょうぜつ)の向こう側に、新しい言語観が見えてくる。=朝日新聞2019年9月14日掲載