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湊かなえさん新刊「落日」インタビュー 節目は「やはりミステリーを」 

湊かなえさん=山崎聡撮影

10周年ツアーの大トリ/「虚構と現実の距離」に向き合う

 脚本家見習いとして働く甲斐千尋(かいちひろ)のもとに、世界的な評価を受けた気鋭の映画監督、長谷部香(はせべかおり)から新作の相談が舞い込む。面識も接点もない。いぶかしんで話を聞くと、15年前に2人の故郷で起きた一家殺害事件で映画を撮りたいという。事件は2人の過去に異なる影を落としていた――。

 本作は、デビュー10周年を記念して2017年に始めた47都道府県サイン会ツアーの掉尾(ちょうび)を飾るべく構想された。「最近はあんまりミステリーを意識しなくていいかなと思う作品も増えてきたんですけど、10周年記念の大トリになる作品なので、ここはやっぱり長編ミステリーを、と」

 その言葉通り、読者をミスリードする仕掛けや、真相を最後の最後で明かす構成は、まさに王道。でも、今回は「10年続けてきて見えたものとか、一つずつの作品に向きあいながら、これでいいのかなって思っていたことにも向き合えたら」とも考えたという。

 それが、「フィクションと現実の距離」だった。現実の事件を題材にする映画監督と脚本家を視点人物に据え、取材で実際の裁判にも足を運んだ。だが、「裁判記録や被告の精神鑑定書を読んでも、『真実』はわからない。当事者が語ったとしても、嘘(うそ)か本当か。裁判を有利にするためのものとしか思えなくて」。

 そのとき、「そこに物語が入り込む余地がある」と思えた。現実の事件を指して「想像を超える」と言われることもあるが、「物語を読んで想像の枠を広げておくことによって、受け止められることもある。最悪の状況を避けたり、他人の気持ちに寄り添えたり。そういう役割を果たしていけるんじゃないかなと」。

 サイン会ツアーも終わり、「ここで活動休止にしようかなと思ってたんですけど、案外ここから頑張るんですよ、私。なんで?と思うんですけど」と苦笑い。『落日』の執筆と並行して月刊誌にも連載し、美容をテーマにしたミステリーを書き上げた。次回作も決まっている。

「旅にでも出る予定だったのに、どうなっているんでしょう」

 (山崎聡)=朝日新聞2019年9月25日掲載