「楽園の真下」書評 巨大カマキリと自殺者の関係は
ISBN: 9784163910895
発売⽇: 2019/09/11
サイズ: 20cm/478p
楽園の真下 [著]荻原浩
ロイコクロリディウムという寄生虫がいる。カタツムリなどの触角に寄生する吸虫の仲間で、宿主のカタツムリの行動を制御し、日なたに出て鳥に食われやすくする。寄生されたカタツムリの、うにょうにょと動く触角はまるでイモムシのようで、鳥はそれをつついて食べる。吸虫は鳥のおなかの中で成長し、卵がでてきて糞と一緒に排泄される。それをカタツムリが食べて……という風に吸虫の生活環がまわっていく。
こういう寄生虫がいることを頭のすみに置いておいて、さて、この小説だ。本書の主人公はカマキリである。日本の南方にある志手島(してじま)。そこへ行く船が週に何便もあるわけではない、絶海の孤島。観光業で持っている、いわば楽園の島だ。そこで、全長17センチという大きなカマキリが見つかる。その取材に、フリーライターの藤間が送り込まれる。が、それと同時に、この小さな島で、水死による自殺がやたらに多く報告されている。実は藤間は、その自殺の方に興味が向いていて……というお話。
島にはいろいろとおもしろい人物がいるが、話の中心で藤間の相棒となるのは、某大学の野生生物研究センター長の秋村先生だ。教授ではなく准教授。真っ黒に日焼けした女性である。この人の知識と創意工夫と機転がすごくて、カマキリは、だんだんにその脅威の全貌が明らかにされていく。とても17センチなんて可愛いもんじゃない。最後の方では、1メートルを超す巨大カマキリとの一騎打ち。まるで、昔の映画の「エイリアン」みたいだ。
なぜこんな巨大カマキリができたのか、害があるなら撲滅すればよいのか? カマキリと自殺の関係は、先の吸虫がヒント。カマキリとの活劇の裏で、生態系に関していろいろ複雑な問題を考えさせる。この作者独特のユーモアにあふれ、飽きさせない。読み終わると、どうも続編があるように思えてならず、期待が高まる。
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おぎわら・ひろし 1956年生まれ。作家。『海の見える理髪店』(直木賞)、『明日の記憶』(山本周五郎賞)など。